1. 大部分の人が老後に不安を感じている
日本人の平均寿命は男女ともに80歳を超え、多くの人が長い老後の生活に不安を感じています。『健康』より『お金』に不安を感じる人が多いのが実状です。
最も気になるのはやはりお金のこと
生命保険文化センターの『生活保障に関する調査』によると、老後に不安を感じている人は全体の8割を超えています。不安内容の上位を占めるのは、お金に関することです。
8割超の人が、老後の生活は『公的年金では不十分』だと感じています。『日常生活に支障が出る』と回答した人を上回る割合です。
お金のことに不安を感じる理由の一つとして、老後の収支見込みをイメージできない点が挙げられるでしょう。
老後の不安を軽減するためには、生活費や年金額の見込み額を把握し、きちんと備えることが重要です。
参考:老後の生活にどれくらい不安を感じている?|公益財団法人生命保険文化センター
2. 老後の生活費はどれくらいかかる?
老後に必要な生活費の目安を、夫婦と単身者に分けて紹介します。ゆとりある老後を送るための必要額や、不足分をまかなうための資金の目安も押さえておきましょう。
夫婦2人暮らしの目安は
総務省の『令和元年 家計調査報告』を見れば、高齢無職世帯の家計収支の平均が分かります。夫65歳以上・妻60歳以上の夫婦のみの無職世帯においては、消費支出の月額平均は239,947円です。
消費支出とは、生活を維持するための支出です。食費・住居費・水道光熱費・被服費・教育費・交通通信費・保険医療費などが該当します。
月々の総支出を生活費と考えるなら、消費支出に加えて非消費支出も考慮しなければなりません。非消費支出とは、消費に関係しない税金や社会保険料を示す支出です。
高齢夫婦無職世帯の非消費支出は、月額平均30,982円となっています。消費支出との合計額270,929円が、夫婦2人暮らしにおける老後の生活費の目安です。
ゆとりある暮らしを送るには
生命保険文化センターの調査では、老後に必要と考える最低生活費に加え、ゆとりある老後の生活費に関する調査も行われています。この調査における夫婦2人の最低生活費の平均額は221,000円です。
老後をより充実した時間にするための上乗せ額は、月額平均140,000円となっています。ゆとりある老後の生活費は、最低生活費と上乗せ額を合計した361,000円です。
上乗せ額の使用目的で最も多かった項目は『旅行やレジャー』で、選択した人の割合は60.7%です。次に多いのが51.1%の『趣味や教養』で、以下『日常生活費の充実』『身内とのつきあい』と続きます。
参考:老後の生活費はいくらくらい必要と考える?|公益財団法人生命保険文化センター
単身者の場合は
総務省の家計調査報告では、高齢単身無職世帯の家計収支調査も実施されています。60歳以上の単身無職世帯の消費支出は、月額平均139,739円です。
税金や社会保険料に該当する非消費支出の平均額は、12,061円となっています。総支出を生活費と考えた場合、高齢単身者の老後における生活費の平均は151,800円です。
単身者がゆとりある老後生活を送るための上乗せ額は、生命保険文化センターの調査が参考になります。夫婦2人の上乗せ額の平均が140,000円であるため、単身者なら半分の70,000円程度と考えればよいでしょう。
老後の必要額をシミュレーション
老後の生活費の不足額を計算するためには、老後の収入額を把握しなければなりません。総務省の調査結果では、高齢無職世帯の実収入の平均額が分かります。
高齢夫婦無職世帯の実収入は237,659円、高齢単身無職世帯の場合は124,710円です。どちらのケースでも、実収入のほとんどを公的年金などの社会保険給付が占めています。
実収入で総支出をまかなえれば、生活費の予備費を考える必要はありません。しかし実際には、夫婦で平均33,269円、単身者で27,090円の不足分が発生しています。
老後を25年間とすると、夫婦に必要な資金額は、33,269円×12カ月×25年=9,980,700円です。単身者の場合は、27,090円×12カ月×25年=8,127,000円と計算できます。
3. 生活費以外に必要なお金もある
年を重ねていくと体が弱っていくため、生活費以外に医療費や介護費を考えておく必要があります。一時的に発生する資金の用意も大事です。
医療費
一般的に、人は年齢を重ねるほど病気にかかりやすくなります。生活費以外に必要な老後資金として、入院や手術で発生する医療費を意識しなければなりません。
厚生労働省の『平成30年度 医療費の動向』によると、75歳以上の医療費の平均額は、平成30年度で939,000円です。平成26年度の931,000円から、毎年ほぼ横ばいで推移しています。
ただし、国民皆保険制度により、日本では医療費の自己負担額が1~3割で済みます。75歳以上なら、ほとんどの人は1割負担です。
医療費の上限額を超えた分が還付される『高額療養費制度』も利用できます。被保険者の所得が低いほど、また高齢になるほど、上限額が低くなるように設定されています。
参考:「平成30年度 医療費の動向」を公表します P.2|厚生労働省
介護関連の費用
高齢になり体の自由がきかなくなると、介護にもお金がかかります。施設介護と在宅介護のどちらを選択するかで、費用の考え方が異なります。
介護保険サービスで利用できる公的施設なら、入居費用が発生せず、月額利用料の自己負担額も1~3割で済みます。民間の老人ホームに比べ、費用負担を抑えられるのが特徴です。
在宅介護に関しては、生命保険文化センターの『平成30年度 生命保険に関する全国実態調査』が参考になります。
介護に要した費用のうち、住宅改造や介護用ベッドなどにかかった一時費用の合計額は、平成30年で690,000円です。月々の介護費用の平均額は78,000円となっています。
参考:平成 30年度 生命保険に関する全国実態調査〈速報版〉 P.96,97|公益財団法人 生命保険文化センター
もしものときの緊急資金
医療費や介護費以外にも、一時的に発生する資金の準備が不可欠です。老後も自宅に住み続ける場合は、建物の老朽化に備えてリフォーム代を考えておかなければなりません。
車を運転している人なら、買い替えの際にまとまった資金が必要です。子どもや孫がいる場合、資金に余裕があれば子どもの住宅購入費や孫の進学費をサポートできます。
親戚・知り合いが亡くなった際の香典代や、万が一自宅が災害に見舞われた際の再建資金も見込んでおく必要があるでしょう。緊急資金は、余裕があるに越したことはありません。
4. 他人事ではない老後破産
老後の生活費が足りなくなると、老後破産に陥る恐れがあります。破産に追い込まれやすいケースを知り、リスクに備えることが大切です。
老後破産とは
年金だけでは生活できなくなり、貯金も底をついてしまった状態が『老後破産』です。老後破産に陥ると、医療費や介護費も支払えなくなります。
高齢化が進む中で、年金生活者における老後破産の増加が大きな問題として扱われています。老後破産の状態になると、親戚を頼ったり生活保護を受給したりしなければなりません。
現役時代に所得が少なかった人や年金の少ない人だけでなく、定年時に十分な資金がある人でも老後破産に陥る場合があります。他人事ではない問題として認識することが重要です。
老後破産に陥るケースとは
定年後も現役時代の生活レベルを維持している人は、老後破産に陥りやすくなります。十分な貯金があったとしても、年金額をはるかに上回る支出が続けば、貯金がなくなるのも時間の問題です。
定年後に住宅ローンが残っている人も、老後破産に注意しなければなりません。月々のローン返済額が生活費を圧迫し続けると、破産状態に追い込まれやすくなります。
子どもが自立せず親元に住んでいたり、定年後もまだ子どもが高校生や大学生だったりする場合は、子どもに関する出費で老後破産に陥る場合もあるでしょう。
これらのケースで分かるように、年金額や貯金額が多くても、老後破産に陥るリスクは大いにあります。可能な範囲で対策を立てておくことが大事です。
5. 実際のところ、年金はいくらもらえる?
老後の生活費を計算するにあたっては、実際にもらえる年金額の目安を把握しておく必要があります。将来的に年金は減額される可能性が高いことも知っておきましょう。
標準的な世帯の例は
厚生労働省の調査資料によると、平成30年度における国民年金受給額の平均月額は55,708円、厚生年金は143,761円であることが分かります。
ただし厚生年金に関しては、平均的な収入で40年間就業した場合の『モデル年金』と呼ばれる指標があります。
夫婦2人の標準的な世帯が受け取れる、令和3年4月分からのモデル年金額は、月額220,496円です。この金額には、夫婦2人分の老齢基礎年金が含まれます。
国民年金が実際にいくらもらえるかは、加入した月数で概算できます。『約780,000円×保険料納付月数÷480』で算出される金額が、実際にもらえる年金額の目安です。
厚生年金の実際の受給額は年収により異なるので、自分の条件における受給額を確認しましょう。
参考:平成30年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況|厚生労働省
年金はだんだん減額される
2021年度から、物価や賃金の上下に合わせて年金支給額を見直す新ルールが導入されます。前項で紹介した厚生年金額220,496円は、新ルールの適用により0.1%減った金額です。
年金支給額の計算には、『マクロ経済スライド』と呼ばれるルールも適用されることがあります。現役世代の人口などをもとに、給付水準を調節する仕組みです。
このまま少子高齢化が進み、景気が大きく回復しない状態が続けば、年金の減額は避けられないでしょう。自助努力による資産形成がますます重要となってきます。
6. 老後の生活費に困らないために
定年後も仕事で収入が得られるなら、老後の生活費をある程度まかなえるでしょう。投資や貯蓄で早い段階から対策を講じておくのもおすすめです。
働き続ける
老後の生活費の不足分を補う方法としては、定年後も働き続けることが挙げられます。60歳を過ぎても働ける環境や体力があるなら、収入を得られる仕事を続けるのが有効です。
深刻化する人手不足の解消や、年金生活者の資金確保のサポートを目的とし、政府も高齢者が働きやすくなる法整備を進めています。
令和3年4月には『改正高年齢者雇用安定法』が施行されました。従業員の70歳までの就労確保を、企業の努力義務とする規定が盛り込まれた法律です。
定年後も働き続けることで、収入面だけでなく、生きがいや健康面にもよい影響を与えるでしょう。
堅実な投資をする
投資による資産形成を目指すのも、老後の生活費を増やす方法の一つです。ある程度まとまったお金があるなら、リスクを抑えた堅実な投資で資金を増やせる可能性があります。
資産運用を成功させるポイントの一つが長期運用です。短期間でハイリターンを得ようとするとリスクも高まるため、早い段階から長期的な計画を立てる必要があります。
分散投資を意識することも重要です。一つの金融商品に対してのみ資金を投入してしまうと、失敗した際に大きな損失を被りかねません。リスクを補い合える分散投資は、資産運用における大事な考え方です。
貯蓄する
現役時代にできるだけ貯蓄すれば、老後の生活費に困りにくくなります。子育てが一段落する50代で貯蓄に励むのがおすすめです。
どのくらい貯蓄すればよいのかは、人により異なります。定年後の出費を把握し、年金などの収入を差し引けば、理想の貯蓄額を算出できるでしょう。
40歳から毎月50,000円貯蓄し続ければ、年金受給開始時の65歳までに15,000,000円貯められます。ゆとりある老後を目指す場合も、できるだけ多くの貯蓄があると安心でしょう。
7. 老後の資産づくりにおすすめの方法
個人年金保険・つみたてNISA・iDeCoは、老後資金を形成しやすい方法としておすすめです。それぞれの概要を解説します。
個人年金保険
老後に向けた資産形成方法の定番といえるのが『個人年金保険』です。60歳や65歳まで保険料を支払い、満期後は積立金をもとに年金の形でお金を受け取れます。
保険の種類により、保険料の支払い方法や年金の受け取り方を選べます。契約した分の年金額は最低保証されるため、老後資金を堅実に準備できる点がメリットです。
一定の要件を満たせば、『個人年金保険料控除』の適用も受けられます。支払った保険料の金額に応じて、所得税や住民税から控除できる税制上の優遇制度です。
つみたてNISA
『つみたてNISA』は、主に少額投資をサポートするための税制優遇制度です。投資の基本である『長期運用・分散投資・積立投資』を実現しやすい仕組みになっています。
つみたてNISAの口座を開設すれば、毎月一定額が引き落とされ、自分で選んだ商品を自動的に買い付けます。投資で得た利益を、最長20年間非課税で受け取れることが大きなメリットです。
選べる金融商品が既に厳選されているのも特徴です。投資初心者に優しい投資先が用意されているため、低コストかつ長期的に資産運用できます。
iDeCo(個人型確定拠出年金)
20歳以上60歳未満なら誰でも加入できる私的年金制度です。毎月掛け金を積み立てながら運用し、積立金や運用益を60歳以降に受け取れます。
運用期間中に得た売買益は全額非課税です。本来なら利益の約20%が課税されますが、その分を積み立てに回せるため、長期運用における複利効果を実感しやすくなります。
掛け金の全額が所得控除の対象となる点もメリットです。積立金や運用益を受け取る際にも所得控除を適用できるため、大きな節税効果につなげられます。
8. 生活コストを減らす方法
老後の生活費をできるだけ抑えるためには、生活コストを減らすのが有効です。以下に挙げる3点をチェックし、今のうちから対策を練っておきましょう。
通信費を見直す
生活費における固定費の中でも、比較的大きな割合を占めがちなのが通信費です。スマホやインターネットにかかる通信費を見直せば、生活コストの削減につなげられます。
現在加入中のプランを確認し、無駄な部分がないかチェックしてみましょう。思い切って通信事業者を変更すれば、コストを大幅に減らせる可能性もあります。
大手の通信事業者にこだわりがないなら、『格安SIM』に乗り換えるのも一つの方法です。スマホの月額利用料を10,000円以上安くできるケースもあります。
保険のプランを整理する
生命保険に加入しているなら、保険のプランを見直しましょう。加入時から時間が経っている場合は、不要な保障がついたままになっている可能性があります。
子どもが既に自立して収入を得ているのであれば、高額な死亡保障は不要でしょう。入院や手術の際に給付金を受け取れる保障も、支払った保険料を取り戻せるとは限りません。
保険の内容は定期的に更新されるため、プランを整理すれば新しい保障が見つかることもあります。よりお得な保障を受けられれば、生活費の削減につなげられます。
維持費の安い軽自動車に乗り換える
車に関する出費は家計を大きく圧迫します。普通自動車を所持しているなら、軽自動車に乗り換えることで、年間の支出を数万円減らせるでしょう。
乗り換えにより費用を削減できるものとしては、ガソリン代・自動車税・保険料・車検代が挙げられます。
退職後はライフスタイルが大きく変わるため、老後の生活に合わせた車を選び直すのに適したタイミングともいえます。年齢によっては、免許を返納し車を手放すのも有効です。
9. 老後に必要な生活費を把握してしっかり準備を
老後の生活で困らないようにするためには、必要な生活費と年金受給額を把握することが重要です。生活費以外に発生するお金も考慮し、収支の見込み額をきちんと割り出しておかなければなりません。
生活費が足りない場合は、老後資金を増やす努力が求められます。現役のうちから投資や貯蓄に励み、できるだけ多くのお金を残す意識を持って生活しましょう。