1. 独身と夫婦で老後の必要資金は変わる?
総務省が公表するデータから、老後に必要な資金の目安が分かります。平均収入と平均支出の差額を、独身と夫婦の2ケースに分けて解説します。
独身の場合
高齢単身無職世帯における実収入の月平均額は124,710円です。税金や社会保険料などの非消費支出12,061円を差し引くと、自由に使える可処分所得は112,649円となります。
一方、生活費に該当する消費支出の月平均額は139,739円です。消費支出には、食料費・住居費・水道光熱費・交通費・通信費・被服費など、生活に必要な費用が含まれています。
消費支出から可処分所得を引いた27,090円が、高齢単身無職世帯における毎月の赤字分です。老後30年間で生活費に足りない金額は、27,090円×12カ月×30年=9,752,400円と算出できます。
高齢者の実収入のうち、ほとんどの割合を占めるのが公的年金です。独身の場合、最低でも約10,000,000円の老後資金を、年金以外に準備する必要があります。
夫婦の場合
総務省の資料には、夫婦2人暮らしの家計収支も示されています。高齢夫婦無職世帯における実収入の月平均額は237,659円、非消費支出を差し引いた可処分所得は206,678円です。
消費支出239,947円から可処分所得を引いた33,269円が、高齢夫婦無職世帯における毎月の赤字額となります。老後30年間の不足分は、33,269円×12カ月×30年=11,976,840円です。
高齢夫婦2人暮らしの場合、約12,000,000円の老後資金を用意しておかなければなりません。ゆとりある老後を目指すなら、さらに資金を上乗せする必要があります。
2. 年金はどこまで頼りになるの?
老後の収入の大部分を占めるのが厚生年金や国民年金です。老後の生活を支える目的で受給される年金でも、現実的には老後をまかなえない可能性が高いでしょう。
厚生年金と国民年金の差は大きい
公的年金は、国民年金と厚生年金の2階建て構造になっています。20歳以上の全員が加入するのが1階部分の国民年金、会社員や公務員のみ加入するのが2階部分の厚生年金です。
会社員や公務員は、老後に国民年金と厚生年金の両方をもらえます。一方、会社に勤務していない自営業者は、国民年金しか受け取れません。
厚生労働省が公表する資料では、国民年金と厚生年金の平均月額が分かります。平成30年度における国民年金の平均月額は55,708円、厚生年金と国民年金を合計した受給額の平均は143,761円です。
参考:平成30年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況 P.28|厚生労働省
年金だけだと足りないのが現実
生命保険文化センターが全国18~69歳の男女を対象に行った調査によると、夫婦2人が老後に最低限必要な生活費は、月額平均で221,000円です。
経済的にゆとりのある老後を送れる金額は、140,000円を上乗せした361,000円です。18~69歳の人を対象とした調査であるため、調査の基礎となる金額には老後を予想した金額も含まれています。
一方で、老後の収入は公的年金がほとんどを占めています。夫婦のどちらかが厚生年金を受け取れるケースでも、ゆとりある老後を送るための必要額には届かないのが実状です。
生命保険文化センターの調査でも、78.7%の人が、自分の老後を公的年金で『まかなえないと思う』と回答しています。
参考:令和元年度 生活保障に関する調査《速報版》 P.39,40,43|公益財団法人 生命保険文化センター
3. 老後は想定外の出費が発生しがち
老後の資金を考える場合は、生活費以外に発生する出費にも注意が必要です。生活費の節約方法と併せて解説します。
生活費以外にかかるお金がある
高齢になると体が弱ってくるため、入院や手術での高額な医療費負担が発生しやすくなります。体の自由が利かなくなった際の介護費用も、高額になりがちな出費です。
一般的な年金生活者なら、医療費の自己負担上限額はひと月あたり57,600円、介護費は44,400円で済むでしょう。ただし、長期で入院したり介護施設を利用したりする場合は、自己負担額も高額になります。
持ち家に住んでいる人は、リフォーム代を考えておかなければなりません。子どもや孫がいる場合は、ライフイベントごとにお祝い金が必要になるケースもあります。また自分の葬儀費用を残しておけば、家族に経済的な負担をかけずに済むでしょう。
参考:
月々の負担の上限 (高額介護サービス費の基準)が変わります|厚生労働省
生活費を節約するポイント
想定外の出費で生活が苦しくなるのを防ぐためには、生活費の節約を意識する必要があります。今のうちから、できる範囲で節約に取り組んでおくとよいでしょう。
自宅のインターネットや携帯電話のプランを見直せば、不要なオプションを見つけられる可能性があります。現在加入中の生命保険も、無駄な保障を付けていないか確認することが重要です。
普通車を所有しているなら、軽自動車に乗り換えれば維持費の大幅な削減につなげられます。
日々の暮らしの中でも、細かい部分で節約できないか意識しながら過ごしましょう。経済産業省の『家庭の省エネ 徹底ガイド』は、電化製品の省エネ対策に役立ちます。
4. 老後の資金づくりはまず貯蓄から始めよう
老後のための蓄えを増やす一番の近道は貯蓄です。年代別の平均貯蓄額や毎月の貯蓄額の目安、無理なく貯めるポイントを紹介します。
年代別の平均貯蓄額
厚生労働省の『平成28年 国民生活基礎調査の概況』では、平均貯蓄額が年代別に公表されています。退職直後の世代である60歳代が最も高く、平均貯蓄額は13,376,000円です。
次に高いのが12,601,000円の70歳以上で、以下10,496,000円の50歳代、6,520,000円の40歳代と続きます。全体の平均貯蓄額は10,315,000円です。
ただし、どの年代の平均貯蓄額も、貯蓄が高い富裕層の影響を受けて数値がかなり高くなっています。より現実的な数値に近い中央値は、全ての年代で約半分と考えてよいでしょう。
参考:平成28年 国民生活基礎調査の概況 P.14|厚生労働省
毎月の貯蓄額は収入の10%以上を
金融広報中央委員会の調査結果によると、収入の一部を貯蓄している人の中では、手取り収入の10~15%を貯蓄している人が最も多くなっています。
同調査では、全国の手取り収入の平均が4,870,000円であることも分かります。10~15%を貯蓄する場合、金額に直すと487,000~730,500円です。
1カ月あたりの貯蓄額は、約40,000~60,000円と計算できます。毎月40,000円を20年間貯蓄すれば、9,600,000円貯めることが可能です。
『浪費家』と『一般的』の境界線が10%、『一般的』と『貯蓄家』の境界線は30%という考え方もあります。最低でも収入の10%を貯蓄に充てられるよう心掛けてみましょう。
参考:家計の金融行動に関する世論調査[二人以上世帯調査](2017年) 統計表番号1, 75 |金融広報中央委員会
無理なく貯金を増やすには
毎月の給料から一定額を貯蓄するルールを決めておけば、貯蓄分を考えずに済むため、お金が貯まりやすくなります。給料日直後の無駄遣いに気を付けるのもポイントです。
給料を食費などの名目ごとに分け、その範囲でやりくりする方法も有効です。残りの予算がはっきりしているため、無駄遣いしにくくなります。
子どもがいる場合、給料だけで生活できている状況なら、児童手当は全て貯蓄するのがおすすめです。中学校卒業時まで支給されるため、まとまった金額を貯蓄できるでしょう。
5. 貯蓄以外で積極的に資金を増やす方法
老後の資金は、貯蓄以外の方法でも増やすことが可能です。どのような方法があるのかを知り、今のうちからできることは実践してみましょう。
できるだけ長く働く
定年後も引き続き働けば、老後資金の減少を抑えられます。現役時代と同レベルの給料を受け取れるなら、働いた期間だけ老後期間を短縮することが可能です。
令和3年4月施行の『高年齢者雇用安定法』により、70歳までの就労機会確保が企業の努力義務とされたため、高齢者は定年後も働く機会をより得やすくなります。
少子高齢化が進む日本では、企業における人手不足が深刻な問題です。現役時代に培ったスキルや経験を生かせる場があれば、高齢者でも働きやすい状況であるといえます。
年金を繰り下げて受け取る
現在の法律では、65歳から年金の支給が開始されます。支給開始時期を後ろにずらし、年金を繰り下げて受け取れば、受給額を引き上げることが可能です。
支給開始時期を1カ月遅らせるごとに、受給額は0.7%増加します。繰り下げの限度である5年後の70歳までタイミングをずらせば、増額率は42.0%です。
資金に余力がなければ、年金の繰り下げは難しいでしょう。しかし、繰り下げにより増額した年金額は一生涯続くため、資金不足の大幅な解消につながります。
積み立て型の投資を行う
老後資金の形成方法としては、積み立て型の投資もおすすめです。『つみたてNISA』や『iDeCo』なら少額から始められるため、投資初心者でも取り組みやすいでしょう。
税制面で大きな優遇を受けられる点も、つみたてNISAやiDeCoのメリットです。どちらも長期にわたり一定の金額で金融商品を購入し続けるため、値動きによるリスクを最小限に抑えられます。
投資といえば『FX』や『仮想通貨』なども挙げられますが、ハイリターンは期待できるものの、リスクが高くおすすめできません。支払い負担を抑えながら長期運用できる積み立て型の投資が、老後の資産形成に適しています。
個人年金保険に加入する
『個人年金保険』とは、公的年金とは別に任意で加入し、年金の形でお金を受け取れるタイプの保険です。積み立て金として保険料を支払い続け、期間満了後に積み立て金と運用益を受け取れます。
支払い方法や受け取り方法は、保険の種類により異なります。払い込んだ保険料はすぐに引き出せないため、貯蓄が苦手な人でも堅実にお金を貯められる点がメリットです。
一定の条件を満たせば、個人年金保険料控除を受けられます。支払った保険料の金額に応じて、所得税や住民税から控除されるため、一般的な貯蓄よりお得です。
6. 老後の資金づくりは資産運用も視野に
基本的に、老後の生活費は公的年金でまかないます。しかし、老後は想定外の出費が発生しやすいこともあり、年金だけでは生活が立ち行かなくなるのが実状です。
老後を安心して過ごすためには、老後の資金を貯めなければなりません。収入から貯蓄に回す方法を基本としながら、積み立て型の投資や個人年金などの資産運用も検討しましょう。