1. 老後への備えは早く始めるほど有利に
30代から老後資金の準備を始めれば、より多くの貯金が可能です。公的な資料から算出した貯金額の目安をチェックし、資金づくりの参考にしましょう。
現在30代ならまだ先は長い
老後のための資金づくりは、早いうちから始めるに越したことはありません。現在30代の人でも、今からコツコツとお金を貯めていけば、ある程度の貯金が可能です。
厚生労働省の資料によると、令和元年時点で35歳の人の平均余命は、男性が約47年、女性が約53年です。寿命を迎えるまで約50年、60歳からの老後が約25年としても、老後を迎えるまでまだ約25年あります。
毎月50,000円貯金すれば、25年後の貯金額は15,000,000円です。毎月30,000円でも9,000,000円貯められます。目標額は人それぞれ違うものの、今のうちから貯金に励めば、それなりの金額を貯められることが分かるでしょう。
参考:令和元年簡易生命表の概況(1 主な年齢の平均余命)|厚生労働省
老後のための貯金はいくら必要なのか
総務省の調査結果によると、高齢夫婦無職世帯の総支出額は270,929円、社会保障給付額は216,910円です。公的年金などに頼るだけでは、差額の54,019円が毎月不足します。
老後を25年とすると、不足分の合計は54,019円×12カ月×25年=16,205,700円です。リフォーム代・自動車購入費・医療費・葬儀費などもかかると考えれば、より多くの資金を貯めておく必要があるでしょう。
高齢単身無職世帯の貯金の目安も、総務省のデータで計算できます。総支出額が151,800円、年金などの収入が115,558円となっており、毎月の不足分は36,242円です。
1人暮らしの高齢者が、老後25年間で不足する生活費は、36,242円×12カ月×25年=10,872,600円と計算できます。
参考:家計調査年報(家計収支編)2019年 P.18|総務省
2. 充実の老後を過ごすために大切なこと
老後の備えは大事ですが、ただお金を貯めればよいというわけではありません。充実した老後を送るために心掛けておきたいことを紹介します。
生活レベルによって必要額は変わる
総務省のデータから算出した老後資金は、あくまでも平均的な世帯の目安です。老後に必要な貯金額は、老後の生活レベルにより変わります。
ゆとりある老後を送りたいと考えるなら、より多くの資金が必要です。最低限の生活ができれば問題ないと思う人は、公的年金だけで暮らせる可能性もあります。
生活費以外に必要となる資金についても、考慮しておかなければなりません。医療費・介護費・葬儀費などのために、いくら残せば安心できるのか、個々で計算する必要があるでしょう。
健康寿命を伸ばす努力が重要
充実した老後を過ごすためには、健康寿命を延ばす努力をすることも大事です。どれだけ多くの資金を残せたとしても、体が健康でなければ豊かな老後を楽しめません。
規則正しい生活を心掛けることが、健康寿命を延ばすポイントです。定期的な運動や積極的な野菜の摂取、1日6時間以上の睡眠などを、今のうちから実践しましょう。
健康寿命が延びれば病気や介護の期間が短くなるため、医療費や介護費の出費を抑えられます。働き続けて生活費の赤字を埋められる点もメリットです。
趣味や生きがいが老後を豊かに
お金だけでなく心を充実させることも、豊かな老後を過ごすためのポイントです。熱中できる趣味を持っていれば、趣味が老後の生きがいとなり、老後を明るく過ごせます。
今は仕事で忙しくても、老後は時間に余裕が生まれます。どのような趣味や生きがいが持てそうか、周囲で生き生きと過ごしている高齢者も参考にしながら考えておくとよいでしょう。
生きがいを持つことは、死亡リスクを軽減させるともいわれています。健康面でもよい影響を及ぼすことが期待される生きがいを、今のうちから見つけておくのがおすすめです。
3. パターン別、もらえる年金額の目安
夫婦でもらえる年金額の合計は、老後を迎えるまでの状況により大きく異なります。パターン別の年金額の目安を紹介します。
夫婦ともに会社員の場合
会社員や公務員は、国民年金と厚生年金の両方に加入するため、老後は老齢基礎年金と老齢厚生年金の合計額を受け取れます。
厚生労働省が公表している年金に関する資料によると、平成30年度の厚生年金の平均受給月額は約146,000円となっています。老齢基礎年金と老齢厚生年金を合計した金額です。
夫婦ともに会社員なら、2人でもらえる年金額は約146,000円×2人=約292,000円です。高齢夫婦無職世帯の総支出額が約270,000円という、総務省のデータと照らし合わせると、生活するのに足る金額であることが分かります。
夫婦2人とも働いている場合、最低限の生活費は公的年金でまかなえるでしょう。ただし、年金受給額は年金加入期間や収入により大きく変わります。
参考:平成30年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況 P.9|厚生労働省
会社員と専業主婦(主夫)
夫婦のどちらかが働いていない場合、老齢厚生年金は1人分しか受け取れません。2人分の老齢基礎年金と合計した金額を受給できることになります。
厚生労働省は、一般的な夫婦のモデル年金を、毎年1月に公表しています。どちらかのみ働いている夫婦が受け取れる、令和3年度の標準的な年金額は約220,000円です。
この金額は、平均的な収入である月額約400,000円で40年間働いた場合の、受給開始直後の年金額です。2人とも働いているケースに比べ、受給額は少なくなります。
参考:令和3年度の年金額改定についてお知らせします|厚生労働省
両方とも自営業
自営業者は国民年金しか加入しないため、専業主婦と同様に老齢基礎年金しか受け取れません。夫婦ともに自営業なら、老後に受給できる公的年金は2人分の老齢基礎年金です。
厚生労働省の資料からは、国民年金加入者の受給額も分かります。国民年金保険料を40年間もれなく納付した場合、令和3年度に受給できる老齢基礎年金は月額約65,000円です。
2人とも自営業のケースでは、受け取れる年金額は約65,000円×2人=約130,000円です。保険料を納めていない期間がある場合、受給額は満額に届きません。
夫婦ともに国民年金しか加入していなければ、年金額が不十分であることが分かるでしょう。老後の備えを、より強く意識する必要があります。
参考:令和3年度の年金額改定についてお知らせします|厚生労働省
4. 意外と知らない?年金を増やすコツ
繰り下げ受給や付加年金の制度を利用すれば、年金受給額を増やせます。老後の備えを手厚くしたい人におすすめです。
繰り下げ受給をする
年金を受け取り始める年齢は、原則として65歳です。受給開始時期を後ろに遅らせて繰り下げ受給すれば、年金受給額を増やせます。
繰り下げ受給により増やせる金額は、1カ月あたり0.7%です。5年後の70歳まで繰り下げられるため、最大で0.7%×12カ月×5年=42%もの金額を上乗せできることになります。
繰り下げている間、年金は受け取れません。しかし、繰り下げにより上乗せされた金額は生涯続きます。きちんとしたライフプランを立てられれば、長生きした場合の老後資金を手厚くできるでしょう。
参考:老齢年金の繰上げ・繰下げ受給について知りたい|公益財団法人 生命保険文化センター
付加年金を利用する
国民年金保険料に月々400円追加する付加年金を利用すれば、受給額を増やせます。付加保険料納付済月数×200円を、老齢基礎年金の年額に上乗せすることが可能です。
付加年金に30年間加入した場合、追加納付する保険料は400円×12カ月×30年=144,000円となります。年額に上乗せされる金額は、200円×12カ月×30年=72,000円です。
年金受給額が会社員の半分以下になる自営業者にとって、老後の備えを手厚くするのに有効な仕組みといえます。会社員や公務員・保険料の免除や猶予を受けている人・国民年金基金の加入者などは、付加年金を利用できません。
前納や口座振替などで得になる
国民年金保険料をまとめて支払えば、保険料が割引されます。納付書を使い、6カ月分・1年分・2年分の一括前納が可能です。2年前納なら、納付額を10,000円以上減らせます。
口座振替で前納すれば、さらに割引額が増えます。口座振替により1カ月先に納付する早割制度を利用することで、月々の保険料の割引を受けることも可能です。
国民年金保険料は、クレジットカードでも納付できます。通常の買い物と同様、カード払いによるポイントやマイルを貯められるため、カードをよく利用している人におすすめです。
5. 老後を見据えて保険を考える
預貯金にすぐ手をつけてしまいがちな人には、コツコツと貯められる保険が向いています。老後の資金形成に活用できる、おすすめの保険二つを紹介します。
低解約返戻金型終身保険を老後に解約する
『低解約返戻金型終身保険』とは、途中解約した際の払戻金を低くする代わりに、保険料を安くしている終身保険です。一般的な終身保険より貯蓄性が高くなります。
低解約返戻金型終身保険に加入すれば、働いている間に万が一のことがあっても、死亡保険金が支払われます。保険を使わずに老後を迎えられれば、解約して払戻金を老後資金に充てることが可能です。
生命保険料控除を受けられるため、払い込んだ保険料に応じて節税できる点もメリットです。保険料の払込期間を短期に設定すれば、教育資金の備えとしても活用できます。
個人年金保険を積み立てていく
公的年金とは別に任意で加入し、保険料を積み立てていく保険が『個人年金保険』です。年金受取期間や運用方法の違いにより、さまざまなタイプに分類されます。
老後資金形成のために一定の金額を積み立てていくため、確実にお金を貯められる点がメリットです。貯金が苦手な人に向くでしょう。
生命保険料控除の適用も受けられます。保険料の支払額に応じて、所得税や住民税から控除できるため、通常の貯金よりお得です。
ただし保険は万能ではない
老後資金の備えとして活用できる保険にも、いくつかのデメリットがあります。例えば、途中解約した場合は、ほとんどのケースでそれまで払い込んだ保険料の総額を下回ってしまいます。
収入が減るなどして保険料の負担が重くなっても、損をすると考えれば解約に踏み切れないこともあるでしょう。元本割れしない定期預金などのような自由度の高さがありません。
個人年金保険の場合は、契約時の金利が期間満了まで続くデメリットもあります。低金利の時期に契約すると、今後金利が上昇しても、契約時の低い利率が適用されたままです。
6. 資産形成はリスクの低い方法で
老後の貯金のために資産を増やしたいと考えるなら、投資も検討しましょう。初心者でも取り組みやすい、低リスクの投資方法について解説します。
債券を買う
リスクを抑えた資産形成方法の一つに、『債券投資』が挙げられます。債券とは、国や企業がお金を借りるために発行するものです。国からは国債、企業からは社債が発行されます。
債券を購入すると、定期的に利子を受け取れます。満期を迎えたら額面金額と最後の利子が戻ってくるため、低リスクでの運用が可能です。
途中で資金が必要になった場合には、満期を迎える前でも解約できます。利子を定期的に受け取れるため、お金のスケジュールを立てやすいでしょう。
税制優遇制度を利用する
老後の資金づくりに役立つ方法としては、税制優遇のメリットがある『iDeCo』や『つみたてNISA』の利用もおすすめです。
つみたてNISAでは、年間400,000円を投資上限額とし、運用益の全額が非課税になります。投資信託を少額から運用できるため、投資初心者に向いています。
積立金を運用しながら資産を形成する私的年金制度がiDeCoです。運用益が非課税になる上、掛け金の全額が所得控除の対象となります。受け取り時にも控除の適用を受けられます。
勉強する意欲があるなら不動産投資も視野に
土地や建物を購入し、家賃収入を得る不動産投資も、リスクの低い資金形成方法です。経営が軌道に乗れば、安定した収入を継続的に得られます。
不動産の購入時に融資を受けられれば、少ない資金で大きな金額を運用することが可能です。土地や建物を所有するため、資産がゼロになるリスクもほとんどありません。
物件や管理会社を適切に選べれば、知識がそれほどなくても、ある程度の収益を期待できます。ただし、老後の備えになるまでの収入を得るためには、それなりに勉強してノウハウを身に付けておく必要があるでしょう。
なお、不動産投資を始める上では不動産投資ローンをいくら借入できるかを初めに認識しておくことは重要です。
不動産投資ローンの借入可能額を調べてみたい方はこちらからチェックしてみてください。無料で利用可能です。
7. 知識と資金を蓄えて老後に備えよう
老後のための資金づくりは、早く始めるほど有利です。貯蓄型の保険に加入したり、低リスクの投資に取り組んだりすれば、普通に貯金するよりお金が貯まりやすくなります。
効率的に資産を形成するためには、老後に必要な貯金額や、もらえる年金額についての知識を蓄えることも重要です。できる範囲で勉強や貯蓄に励み、今のうちから老後に備えておきましょう。