1. 1人暮らしの高齢者は増えていく
1人暮らしの老後資金を考えるにあたり、まずは1人暮らし高齢者の実態を把握しておきましょう。公的資料から分かるデータを紹介します。
数字が示す「1人老後」の増加率
内閣府が実施した調査から、1人暮らしをしている65歳以上の高齢者数の推移が分かります。昭和55年は男性が約190,000人・女性が約690,000人であったのに対し、平成27年は男性が約1,920,000人、女性が約4,000,000人です。
65歳以上人口の全体に占める1人暮らしの割合は、男女合わせて昭和55年で15.5%、平成27年では34.4%です。昭和55年以降の35年間で18.9%増加しています。
内閣府の調査では、将来の推計値も示されています。令和22年における65歳以上の1人暮らし高齢者数の推計値は、男性が約3,560,000人、女性が約5,400,000人です。65歳以上人口に占める割合は、男女合わせて45.3%にまで高まると予想されています。
不安の多くを占めるのが資金面
生命保険文化センターが18~69歳の男女を対象に実施した調査によると、8割を超える人が自分の老後に不安を感じています。
不安の内容で最も多い項目が『公的年金だけでは不十分』です。以下『日常生活に支障が出る』『退職金や企業年金だけでは不十分』『自助努力による準備が不足する』と続き、資金面に関する不安が多くを占めています。
老後の生活を送る上で、お金の問題は切り離して考えられないのが実状です。受け取れる年金額が減額になったり、医療費や介護費など想定外の費用が発生したりするときのためにも、老後資金を貯めておく必要があります。
参考:令和元年度 生活保障に関する調査(速報版)P.37|公益財団法人 生命保険文化センター
独身者の老後に必要な資金は?
1人暮らしの高齢者が最低限の生活を送るために必要な老後資金の目安は、総務省の『家計調査報告』のデータから概算できます。
平成29年における60歳以上の単身無職世帯の家計収支は、総支出が月額154,742円、実収入が月額114,027円です。毎月40,175円の不足分が発生することになります。
老後を25年間とすると、不足分の合計は40,175円×12カ月×25年間=12,052,500円です。収入のほとんどを公的年金でまかなう場合は、約12,000,000円の老後資金を用意する必要があります。
総務省のデータには、医療費や介護費など、万が一の際に発生する費用は含まれていません。安心して老後を過ごすためには、さらに多くの資金が必要になると考えられます。
参考:家計調査報告(家計収支編)平成29年平均速報結果の概要 P.39|総務省
2. 独身者と貯蓄の現状
世間の独身者がどのくらい貯蓄しているのか、気になっている人もいるでしょう。統計データによる独身者と貯蓄の現状を紹介します。
貯蓄の平均値645万円、中央値45万円
金融広報中央委員会が単身世帯を対象に実施した調査によると、将来に備えて蓄えている金融資産保有額の平均値は645万円、中央値は45万円です。
これらの数値は、金融商品を全く保有していない世帯も含んで算出しています。金融資産保有世帯に限れば、平均値は1,059万円、中央値は300万円です。
金融資産保有世帯の金融資産保有額のうち、最も多い金額を占める金融商品が預貯金です。全体の44.2%を占め、金額は468万円となっています。
参考:家計の金融行動に関する世論調査[単身世帯調査]2019年 P.3〜4|金融広報中央委員会
中央値のほうが実態に近い値
金融広報中央委員会の調査結果では、平均値と中央値に大きな差があります。少数の高額資産保有世帯により、平均値が大きく引き上げられているのが理由です。
より実態に近い値を把握するために、平均値と併せて中央値も算出されています。中央値とは、基となるデータを順に並べたとき、中央に位置するデータのことです。
金融広報中央委員会の資料によると、金融資産保有額の中央値は45万円、金融資産保有世帯に限った場合の中央値は300万円となっています。これらの数値が、世帯全体の実態により近い数値です。
参考:家計の金融行動に関する世論調査[単身世帯調査]2019年 P.3〜4|金融広報中央委員会
3. 介護施設に入るにはいくら必要?
老後資金を考えるにあたっては、生活費以外に介護費も考慮しておかなければなりません。独身者が介護施設を利用するために知っておきたいことも解説します。
タイプ別・料金の目安は
介護施設の種類は、公的施設と民間施設の二つに大別できます。月額料金と併せて、入居時に発生する入居一時金の有無にも注意が必要です。
公的施設には、特別養護老人ホームや老人保健施設などがあります。月額料金の目安は、それぞれ50,000~150,000円です。多くの場合、入居一時金は発生しません。
民間施設の種類としては、グループホーム・サービス付き高齢者向け住宅・住宅型有料老人ホーム・介護付き有料老人ホームが挙げられます。
月額料金の目安はそれぞれ100,000~400,000円、入居一時金は0~100,000,000円です。グループホームならほかの種類に比べ、月額料金と入居一時金を安く抑えられる傾向があります。
独身でも介護施設に入れるのか
介護施設ごとに定められた要件を満たせば、独身でも介護施設に入ることは可能です。入居の可否は、要介護度や身元保証人の有無などにより判断されます。
要介護度の段階である自立・要支援・要介護のうち、要介護であればほとんどの施設で入居が認められます。基本的な身の回りのことができる自立や要支援なら、施設によっては入居できません。
独身者で問題になりやすいのが、身元保証人の有無です。親族がいない場合、成年後見人を立てたり身元保証会社を利用したりすれば、入居できる可能性があります。
介護が必要ない『アクティブシニア』のための施設があることも知っておきましょう。公的年金で十分まかなえる金額に利用料が抑えられているため、同居者と楽しく過ごしながら安心して生活できます。
4. 老後破産のリアルに迫る
貯蓄がない状態で、公的年金だけでは生活できなくなることが『老後破産』です。老後破産の実態や、老後破産に陥りやすいケースを紹介します。
高齢者の約90万世帯が生活保護
老後破産に陥ってしまうと、親族の援助や生活保護を頼らなければ生活できません。厚生労働省が実施した調査から、高齢者における生活保護の実態が分かります。
平成31年2月時点で生活保護を受けている高齢者世帯数は880,946世帯です。生活保護を受けている世帯全体に対し、54.1%の割合を占めています。
生活保護を受けている高齢者世帯のうち、単身世帯数は804,954世帯です。生活保護で暮らしている高齢者の約91%が、1人暮らし世帯ということになります。
参考:生活保護の被保護者調査(平成31年2月分概数)の結果を公表します P.1|厚生労働省
年収1,000万円の人でも老後破産
年金額や貯蓄の少ない人だけが、老後破産に陥るわけではありません。年収10,000,000円を超える人でも、老後破産状態になるリスクがあります。
高所得者が老後破産に陥りやすい大きな原因の一つが、老後の生活レベルを下げられないことです。高所得者は現役時と老後の収入差が大きくなりやすいため、生活レベルを変えない場合、すぐに赤字となってしまうでしょう。
現役時代に多くの収入を得ていた人の中には、プライドが邪魔をして老後の現実に向き合えない人も少なくありません。十分な貯蓄がある人でも、年金額をはるかに超える支出を続けていれば、あっという間に貯蓄も底をついてしまいます。
こんな人は老後破産のリスク大
定年後も住宅ローンが残っている人は、老後破産に注意する必要があります。ローンの返済で生活費が圧迫されると、貯金を返済に使わなければならなくなるでしょう。
現役時代にお金を貯められない人も要注意です。老後の生活を公的年金だけでまかなえる状態でも、入院や介護などで予定外の出費が発生すると、たちまち老後破産に陥ってしまいます。
自営業を営んでいる個人事業主は、会社員に比べ受給できる公的年金が少なめです。収入が不安定で貯金しにくいケースもあり、老後破産のリスクが高まります。
5. 独身者の年金はどれくらい?
老後における収入の柱となる公的年金は、どれくらいもらえるのでしょうか。独身者の年金受給額の実態や、今後の年金事情について解説します。
独身者の年金受給額について
年金受給額の金額は、国民年金と厚生年金で大きく異なります。主に自営業者が受け取る年金が国民年金、会社員や公務員が受け取る年金が厚生年金です。
平成30年度における国民年金の平均受給月額は55,708円、厚生年金は143,761円です。両者の間には3倍近い差があります。
勤続年数が長いほど、また給料やボーナスが多いほど、厚生年金の受給額は多くなります。男性は女性より勤続年数が長くなりやすいため、平均受給額も女性より多めです。
参考:平成30年度厚生年金保険・国民年金事業の概況 P.9・P.22|厚生労働省
年金は将来なくなってしまうのか
公的年金の主な財源は、現役世代から徴収する保険料です。少子化が進むと財源が不足し、将来的に年金をもらえなくなるのではと考える人も多いでしょう。
しかし、年金の財源は積立金や国庫負担によってもまかなわれているため、年金制度はよほどのことがない限り破綻しません。保険料の引き上げも、できるだけ抑えられるように調整されています。
ただし、このまま少子高齢化が進むと、年金の支給水準が低下する流れは止められません。年金のみに頼らず、正しい知識に基づいた老後資金の確保がますます重要となってくるでしょう。
免除を受けるともらえる額は少なくなる
収入が減ったり失業したりして保険料の支払いが困難になった場合は、所定の手続きを行うことで保険料の納付が免除されます。
免除される金額の種類は、全額・3/4・半額・1/4の4パターンです。免除の程度に応じて受給額が減額されます。10年以内に追納を行えば、全納した場合と同じ受給額に戻すことが可能です。
保険料免除制度を利用できるのは、失業や災害などによる経済的な理由がある場合に限られます。保険料の納付は義務であり、原則として毎月全額を納付しなければなりません。
6. 早く始めるほど有利?貯金を増やすコツ
老後資金づくりは、できるだけ早いうちから始めるのがポイントです。今からでも実践可能な、お金を貯めるコツを紹介します。
貯金分を最初に切り分ける
「毎月余った分だけ貯金しよう」という考え方では、なかなか貯金できないでしょう。毎月の収入の一部を貯金に回したいなら、貯金できる分を最初に切り分けるのが基本です。
職場の福利厚生に財形貯蓄制度が導入されているなら、制度を利用することで給料から一定額が天引きされ、積立金として貯蓄に回せます。
会社に財形貯蓄制度がない場合は、金融機関の積立定期預金がおすすめです。給料が振り込まれる口座から、毎月一定額を別の口座に積み立てられます。
財形貯蓄制度や積立定期預金は、給料から強制的に貯金分が差し引かれるため、貯金に自信がない人に向いています。残ったお金でやりくりする力も身に付くでしょう。
「ラテマネー」を削る
できるだけ支出を減らしたいなら、『ラテマネー』を削るのも有効です。カフェラテを語源とするラテマネーとは、無意識に続けている小さな出費を意味します。
どのような出費がラテマネーに該当するかは人それぞれです。出勤前に毎日買う缶コーヒー代をはじめ、お菓子代・雑誌代・ATMの手数料などがあてはまる人もいるでしょう。
例えば、毎日缶コーヒーを買って出勤しているなら、自宅でコーヒーを淹れて持っていけば節約につながります。ラテマネーを何年も削り続けられれば、大きな財産となって還元されるでしょう。
副業をする
勤務先で副業が認められているなら、就業時間以外の時間に副業で稼ぐ方法もあります。本業の収入とは別の収入ができるため、副業で得たお金をそのまま老後資金として貯めることが可能です。
どのような副業が向いているかは、人により異なります。コンビニなどでのアルバイトから、特技や趣味を生かしたものまで、副業としてできる仕事の種類はさまざまです。
働き方改革の一環として、政府もダブルワークを推奨しています。副業を解禁する企業も増えているため、状況が許すなら今のうちから始めておけば安心です。
7. 独身者の資産づくりにおすすめの投資
現在の資金にある程度の余裕があるなら、投資によってさらに資産を増やす方法もおすすめです。老後の資金づくりに効果が期待できる、主な投資の種類を紹介します。
つみたてNISAで非課税の恩恵を
毎月コツコツと長期的に資産を貯めていきたいなら、つみたてNISAの利用がおすすめです。投資で得た分配金や譲渡益が、最長で20年間非課税となります。
非課税投資枠は年間400,000円です。最大8,000,000円まで非課税で運用できることになります。投資対象商品は金融庁が厳選したものを選べるため、初心者でも商品選びに頭を悩ませずに済むでしょう。
少額から投資できる点もメリットです。積立・長期運用・分散投資を実現できるため、リスクを抑えた堅実な資産形成を目指せます。
iDeCoで先を見た資産づくり
iDeCoとは、20歳以上60歳未満なら誰でも加入できる私的年金制度です。月々の掛け金を自分で決定し、運用方法も自分で選んで掛け金を運用できます。
原則として60歳に達したら、年金や一時金の形で積み立てたお金を受け取れます。掛け金が全額所得控除の対象となることや、運用益に対する所得税が非課税となる点がメリットです。
年金として受け取る場合は、公的年金等控除も適用できます。転職時や退職時にも年金資産を持ち運べるため、60歳まで長期にわたり資産を形成することが可能です。
投資信託でプロに任せる
投資家から資金を集め、資産運用のプロがその資金を代理運用する金融商品が投資信託です。集めた資金の投資対象選定はプロが行うため、基本的には資金を預けるだけで資産運用できます。
運用により利益を得た場合は、投資額に応じてそれぞれの投資家に還元されます。少額から投資できることや、ファンドを選ぶだけで気軽に運用できることがメリットです。
ただし、プロが運用するからといって、必ず利益を得られるとは限りません。資産の保有中に支払い続けなければならない信託報酬にも注意が必要です。
リスクを理解した上で株式投資
株式会社は、事業資金を集めるために株式を発行します。株式を売買することで運用益の獲得を目指す投資方法が株式投資です。
購入した株式を値上がりしたタイミングで売却すれば、差額が利益になります。株式の保有中に受けられる配当金や株主優待も、株式投資で得られる利益です。
株価が大きく値上がりしたときに売却できれば、獲得できる利益も大きくなります。株式投資を検討する際は、株価の値下がりや会社の倒産によるリスクがある点を、十分に理解しておく必要があります。
不動産投資で収益を確保
マンションなどの不動産を取得し、賃貸や売却で利益を得る投資方法が不動産投資です。定期的な家賃収入が見込めるほか、不動産価格の値上がり時に売却益を得られる可能性もあります。
住宅ローンを組めば、まとまった資金がなくても不動産を購入することが可能です。家賃収入をローンの返済に充てれば、ローン完済後は賃料をそのまま生活費や貯金に回せます。
不動産投資は、ワンルーム投資と一棟買い投資の2種類に分けられます。マンションや戸建て住宅を丸ごと貸し出す一棟買い投資なら、初期費用は高額になるものの、大きなリターンを期待できるでしょう。
なお、不動産投資を始める上では不動産投資ローンをいくら借入できるかを初めに認識しておくことは重要です。
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8. 将来を見据えて準備は早めに始めるべき
1人暮らしの高齢者は年々増えており、多くの世帯で生活保護を受けているのが実情です。年金だけでは生活しにくい現状を理解し、老後資金を貯めておく必要があります。
予想外の医療費や介護費が発生する可能性もあるため、老後資金は多いに越したことはありません。副業や投資なども検討し、早めの準備を意識しておきましょう。