1. 住宅ローンは頭金なしでも組める?
まずは頭金とはどんなお金で、どのような役割があるかを理解しておきましょう。
そもそも頭金とは?
頭金とは、住宅購入の際に自己資金として入れるお金です。住宅ローンで借り入れする金額と合わせて、住宅の購入金額として支払うことになります。4,000万円の住宅を購入するときに、500万円の頭金を用意すれば借入額は3,500万円になり、1,000万円の頭金を用意すれば借入額は3,000万円になります。
このように頭金が多ければ借入額が減り、少なければ借入額が増えます。頭金の金額によって借入額が変わるので、頭金の金額は月々の返済額に影響を及ぼします。頭金が多ければ月々の負担を抑えられ、少なければ負担が増えることになります。
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2. 住宅ローンを頭金なしで組むメリット
後述するように、頭金の相場は購入金額の1~2割と言われますが、必ずなければいけないわけではありません。近年では頭金なしでも住宅ローンを借り入れることができます。頭金を入れない主なメリットには次の4つがあります。
自己資金が少なくても購入することができる
頭金なしで住宅ローンを組めば、準備する自己資金は購入時の諸費用のみで十分になります。また、諸費用も借り入れ可能な金融機関であれば、初期費用なしでも購入することができます。
購入したい物件が出てきたときに、十分な頭金が準備できているとは限りません。理想的な物件を買い逃さないためにも、頭金がなくても購入できることを知っておきましょう。
手元に資金を残せる
頭金を入れれば毎月の返済額や将来の金利支払い、住宅ローンを組むときの諸費用を減らすことができますが、手元の資金が大きく減ってしまいます。住宅購入のほかにも、教育資金や老後資金、自動車の購入資金などは計画的な準備が必要です。また、月々の生活費や、病気・ケガなどによって収入が減ったときの備えなども考えておく必要があります。
頭金なしで住宅ローンを組めば、手元により多くの資金を残しておくことができます。
頭金を入れると住宅ローン控除が減る
住宅ローン控除とは、住宅ローンを借り入れた人が受けられる控除のことで、所得税もしくは住民税を減らす効果があります。
住宅ローン控除による控除金額は、住宅ローンの年末の残高に応じて決まるため、頭金を少なくして借入金額を大きくすると、住宅ローン控除額を増やすことができます。
現在は年末残高の0.7%相当額の控除が受けられるため、0.7%より低い金利で借りられるのであれば、住宅ローン控除を最大限利用できる範囲内で多めに住宅ローンを借りるのが得といえるでしょう。
低金利時代はフルローンもアリ
金利が高い時代は、頭金をできるだけたくさん用意することが、支払う金利の負担を抑えることにつながりました。しかし低金利の状態が続く時代では、住宅ローンの金利は多くかかりません。
そのため、頭金を多く入れることよりも、手元資金を残す方が大きなメリットを得られると考える人が増えています。将来的に子どもの教育資金や車の購入費用などの大きな支出が見込まれるのであれば、低金利の住宅ローンを目一杯借りて手元に現金を残したり、NISA(少額投資非課税制度)やiDeCo(個人型確定拠出年金)などの制度を活用して運用するほうを選ぶこともできます。
3. 頭金なしで住宅ローンを組むデメリット
頭金なしで住宅ローンを組むことにはデメリットもあります。代表的なデメリットは次の3つです。
毎月の返済額が増える
頭金なしで住宅ローンを組むと、借入額が増えるため、毎月の返済額が増えてしまいます。たとえば、3,500万円の住宅を購入するときに、頭金なしで3,500万円を金利0.7%・返済期間35年で借り入れると、毎月返済額は93,982円です。一方で、1,000万円の頭金を入れて、借入額を2,500万円に抑えると毎月返済額は67,130円まで下がります。
金利が少し高くなることがある
金融機関のなかには、物件価格の10~20%の頭金を入れると金利が安くなるプランを用意している場合があります。その場合、頭金なしで住宅ローンを組むと金利の優遇を最大には受けられず、少し高い金利で返済を行わなければなりません。頭金なしで住宅ローンを組む場合には、その点に注意して金融機関を選びましょう。
残債割れが生じやすくなる
近年は家族構成の変化に合わせて住み替える人が増えており、住宅ローンを完済する前に自宅を売却する人も少なくありません。また、返済が厳しくなってしまった場合にも、自宅を売却する選択をすることがあります。頭金なしで住宅ローンを組んでいる場合には、残債が大きいため、市場動向によっては売却額よりも残債が大きくなってしまい(残債割れ)、売却後にその差額を返済する必要が生じることもあります。
4. 頭金なしで住宅ローンを組む際のポイント
頭金なしで住宅ローンを組む際には、無理のない返済計画を立てることと、収入・支出の状況が変化したときのシミュレーションを十分に行っておくことが重要です。
年収ごとの無理のない返済額と購入額を確認しよう
一般的に、無理のない住宅ローンの年間返済額は年収の20~25%と言われます。そのためには借入額を年収の5~7倍程度に抑える必要があります。この範囲に収まる借入額の例を年収ごとに示しました。
状況が変化したときのシミュレーションをしておこう
頭金なしで住宅ローンを組むときには、収入・支出の状況が変化したときにも返済が続けられるかどうかを十分にシミュレーションしておきましょう。勤務先の業績の変動のほかにも、急な病気やケガ、育児・介護といったライフイベントによって収入・支出には変動が生じます。病気やケガに対しては団信(団体信用生命保険)での備えが有効なこともあるため、団信を含めて検討しましょう。
物件の予算を見直そう
前述したように、頭金なしで住宅ローンを組むと残債割れの可能性が高まるため、比較的リスクの高い方法です。自宅を売却することを迫られても、価格が大きく下がっている状況であると、売却したくても難しくなってしまうことがあります。特に頭金なしでローンを組む際には、無理のない予算で物件購入を考えることが重要です。
5. 頭金はいくら入れるべき?
ここまでに頭金なしで住宅ローンを組むことのメリット・デメリットなどを解説してきましたが、具体的にどのくらいの金額を用意する人が多いのでしょうか? 相場や頭金を入れるときの注意点についても解説します。
相場は物件価格の10〜20%
頭金の相場は物件購入価格の「1~2割」とされています。例えば3,500万円の物件を購入する予定なら、350万~700万円が目安になります。これは、金融機関の住宅ローンの借入可能額が、物件価格の80~100%に設定されていることが多いからです。収入や貯蓄によって緩和されることもありますが、物件価格の1~2割の頭金を用意できれば住宅ローンを利用しやすくなります。
国土交通省の『令和元年度 住宅市場動向調査報告書』に記されている、物件購入者の自己資金比率のデータからも、2割以上の頭金を用意している購入者は多いことが分かります。
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新築注文住宅:27.2%
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分譲戸建て住宅:26.5%
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分譲マンション:39.4%
ある程度の現金は手元に残しておこう
頭金をたくさん入れるほど返済の負担は軽減します。ただし、貯金を頭金として使い切ってしまうのは避けましょう。住宅購入時には頭金のほかに、諸費用もかかります。新築物件なら購入価格の5~7%、中古物件なら7~10%が諸費用の目安です。3,500万円の物件を購入する場合には、175万円ほどにもなります。
また購入直後には、引っ越し費用や家具・家電の買い替え費用なども必要です。近い将来にあるかもしれない、車の買い替えや子どもの進学にも備えなければなりません。貯金のうち、諸費用・生活予備費・将来への貯蓄を差し引いた分が、頭金に充てられる最大の金額と考えます。
6. 頭金ありと頭金なしで住宅ローンの返済額の違い
頭金の有無によって、住宅ローンの返済額や諸費用などにどのくらいの差が生じるかを比べてみましょう。ここでは例として、3,500万円の物件を購入するときに、1,000万円の頭金を入れるかどうかを比較します。住宅ローンの返済期間は35年、事務手数料・保証料は借入額の2.2%とし、金利は0.7%と2.0%の2つのケースでシミュレーションしました。
頭金を入れると、事務手数料・保証料といった住宅ローン借入時のコストを減らせるほか、毎月返済額と支払う金利も減らすことができます。総支払額では、金利0.7%の場合には約100万円、金利2.0%の場合には約400万円の支払いを減らすことができます。
7. 頭金の金額はライフプランと合わせて検討
頭金は、自宅を購入するときに用意する自己資金のことをいいます。頭金が多いほど借入金額は少なくなるため、返済の負担を軽減することができます。
ただし、貯金をすべて頭金として使ってしまうと、諸費用やその後の生活に必要な資金が不足する可能性があります。そこで手元資金をある程度残した上で、頭金を用意することが大切です。
また、低金利が続く現在の状況では、頭金を入れずに住宅ローンを契約する選択肢もあります。手元資金を残せるメリットがある一方で、リスクやデメリットがある点にも注意しましょう。
住宅ローン審査、ここがポイント!
通らない理由や対策を解説
住宅ローンの審査は仮審査(事前審査)→本審査の流れで進みます。仮審査と本審査は目的が異なり、仮審査は「その人に融資が可能かどうか」、そして物件の売買契約後に行う本審査では「本当に融資をしていいか」の観点での審査になります。
仮審査では審査の受付基準に合致しているかどうかや本人の返済能力、個人信用情報などが比較的簡易にチェックされます。本審査ではたくさんの書類のチェックや物件の担保価値の精査など、多岐にわたる項目を仮審査よりも厳密に審査されます。
本審査も通過したら金融機関とローン契約し、住宅の決済を行うことになります。
| 審査にかかる期間
仮審査は即日〜1週間程度、本審査は2〜3週間程度を要します。住宅購入時はなにかと慌ただしくなるため、余裕を持ったスケジュールを立てることが大切です。
| 仮審査のポイント
仮審査では大きく3つ、「本人の属性情報」「返済能力」「個人信用情報」がチェックされます。細かく見ていきましょう。
・「本人の属性情報」
申込時の年齢や完済時の年齢、年収や雇用形態、勤続年数など、金融機関が個別に定めている受付基準に合致しているかが審査されます。「正規雇用であること」「勤続1年以上であること」「年収は300万円以上」など細かな条件が金融機関ごとに定められており、それらに合致している必要があります。具体的な基準は非公表のケースが多いものの、「◯◯銀行 商品概要」と検索するとある程度は銀行公式サイトで確認できます。
・「返済能力」
収入に対して借り入れ額が過大でないかが審査されます。代表的な指標として年収に占める年間返済額の割合である「返済比率」があります。住宅ローンの年間返済額の計算には実際の金利ではなく、審査上のみ使われる「審査金利」が使われます。金融機関によって異なるものの、概ね3%前後という高めの審査金利でストレスをかけて計算されます。また、年間返済額には住宅ローンだけでなく自動車ローンやカードローンなどの借り入れの返済も考慮されます。
返済比率の上限は多くの金融機関が非公表ですが、目安は30%〜35%です。フラット35の場合は年収400万円未満なら30%、400万円以上なら35%と公表されています。
・「個人信用情報」
個人信用情報とはクレジットカードの支払いなどの履歴情報です。過去に延滞などのネガティブな履歴があると、住宅ローン審査にはマイナスに作用します。
| 本審査のポイント
本審査では様々な資料の提出のうえ、「仮審査の申告内容との相違がないか」「担保評価」が主に審査されます。
・「仮審査の申告内容との相違がないか」
仮審査で申告した年収と源泉徴収票の金額が違っていないか、借り入れがある場合はその内容が仮審査の申告内容と違っていないかなど、仮審査で金融機関に申告した内容との整合性がチェックされます。
・「担保評価」
住宅ローンで物件を購入すると、通常は金融機関によって「抵当権」が設定されます。抵当権とはいわば担保のことであり、申込人が住宅ローンの返済ができなくなったとき、その物件を売却して融資金の回収に充てるためです。そのため、購入しようとする物件の価値が借り入れ額に対して著しく低くないかをチェックされます。また物件そのもののスペック、例えば耐震基準や適法物件かどうかなども、金融機関の定める基準と照らし合わせられています。
| よくある本審査落ちのパターンやNG行為
・仮審査の申告内容と異なる点があった
仮審査と本審査で申告内容に相違があると落ちる確率が高まります。例えば仮審査で申告した年収と提出した源泉徴収票の年収が違えば、返済能力の計算が狂うことになります。
・別の借り入れを行う
住宅ローンの審査中に別の借り入れを行うと返済比率に悪影響が出ます。ローンという名称ではありませんがクレジットカードのリボ払いも借り入れと同じ扱いです。気軽な買い物が原因で住宅ローン審査に落ちる可能性もあるため注意が必要です。また、審査期間中はローンの延滞にも普段以上に注意しましょう。
・転職や退職
審査中に転職すると通過は難しくなります。金融機関は現在の勤務先で長く働き続けることを前提に住宅ローンの返済能力を見繕っているため、その前提が崩れるのです。さらに勤続年数の基準を満たせなくなる可能性が高くなります。
・健康上の問題で団信に加入できない
『団体信用生命保険(団信)』へ加入できず、住宅ローンを利用できないケースもあります。団信とは契約者が死亡したり高度障害に陥ったりした際、ローン残高を肩代わりしてくれる保険です。
生命保険のため、加入するためには過去3年ほどの病歴や治療歴などを告知しなければなりません。そのため健康状態によっては、団信の審査に通過できない場合があります。一般的な住宅ローンは団信への加入が必須とされているため、加入できなければ契約できません。
| 審査に通りやすくなるコツ・対策
・頭金(自己資金)を多めに入れて借入金額を下げる
自己資金を多めに確保して借入金額を引き下げることで審査に通りやすくなります。多くの自己資金を貯蓄できる人と言えるため、金融機関からの信頼を得やすいでしょう。
借り入れ額が少なくて済むため返済負担も軽減され、返済比率を引き下げることもできます。金融機関によっては自己資金の割合に応じて優遇金利を適用してもらえる点もメリットです。
・借り入れがある場合はなるべく返済しておく
自動車ローンやカードローンなどの借り入れがある場合は、なるべく繰り上げ返済をして残高を減らしておくことも大切です。返済比率を引き下げる要因になるため、審査に通りやすくなります。
・ペアローンや連帯債務、収入合算を検討する
配偶者に収入がある場合は、ペアローンや連帯債務、収入合算により審査を通りやすくすることができます。例えば年収が夫500万円・妻500万円の夫婦が5,000万円の住宅ローンを組む場合、夫1名の債務者だけでは年収倍率(年収に対する借り入れ額)は10倍と非常に高いですが、ペアローンや連帯債務で夫婦2名とも債務者になれば、年収倍率は5倍まで下がります。一般的には、年収倍率は高くても7倍以内であれば審査に通りやすくなります。
収入合算とは夫婦の片方が債務者、もう片方は連帯保証人となる方法です。こちらも連帯保証人分の年収を一定程度加味した審査を受けられるので、単独で組むよりは有利です。
| 本審査は複数の金融機関へ申し込もう
住宅ローンの本審査への申し込みは、複数の金融機関で並行することが可能です。万が一審査に落ちたり減額承認されたりしたときに備え、複数の金融機関へ申し込んでおくとよいでしょう。複数の金融機関で本審査承認を得られたら、最も希望に近い条件のプランで契約に進めばOKです。
審査通過後であっても契約に進んでいなければキャンセルできるため、契約を決めたローン以外はキャンセルしましょう。その後は金融機関と金銭消費貸借契約を締結し、融資実行日を待つだけです。
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