1. 35年ローンは一般的
住宅ローンは長期間かけて数千万円の借入金を返済します。低金利が続く中、35年ローンを組むケースも増えているようです。
住宅ローンの最長借入期間は35年
さまざまな金融機関が住宅ローンを展開しています。最長借入期間の設定もさまざまで、中には50年間借りられる商品もあります。中でも多いのは、最長35年に設定されている商品です。
例えば長期固定金利で知られている『フラット35』は、最長35年間借りられます。民間の金融機関が提供している住宅ローンも、最長35年と定めている商品が多い傾向です。
長期間のローンを組む人は多い
多くの住宅ローンが最長借入期間を35年としている中、実際に35年ローンを契約した人はどのくらいいるのでしょうか?住宅金融支援機構の調査によると、2019年度にフラット35を利用した人の平均返済期間は32.9年でした。
加えて同じデータの中央値は35年です。中央値は、値を大きさ順に並べてちょうど中央に位置する値を指します。そのためこの調査結果からは、少なくとも半数の人が借入期間35年の住宅ローンを契約したと分かります。
このことから長期間かけて返済を目指すローンを組む人は、全体で見ても多数派といえます。
出典:2019年度集計表(全体 第22表)|住宅金融支援機構(旧住宅金融公庫)
2. 35年ローンを組むメリット
多くの人が契約している35年ローンには、具体的にどのようなメリットがあるのでしょうか?代表的なメリットを紹介します。
月々の返済額を抑えられる
同じ借入金額で住宅ローンを組んだ場合でも、返済期間によって毎月の返済額は異なります。毎月の負担は返済期間が短いほど大きく、長いほど小さくなるのです。
例えば25,000,000円を固定金利1.5%で借り入れると、毎月の返済額は下記の通りです。返済期間が長いほど月々の負担を抑えられ、家計に余裕を持たせられます。
- 35年:76,546円
- 30年:86,280円
- 25年:99,984円
- 20年:120,636円
返済期間は長く続きますが、安定した収入を得続けられる勤務形態であれば、メリットの方が大きく感じられる人も多いでしょう。
借入可能額が最大になる
毎月の返済額が少なくなるということは、年収に対する返済額の割合である『返済負担率』も下がります。金融機関では借入可能額を決定する際、返済負担率を用います。
例えばフラット35であれば、年収400万円未満は30%が、年収400万円以上は35%が上限です。この範囲内の借入額で住宅ローンを契約できます。
35年ローンで返済負担率が下がれば、その分借入可能額が上昇するため、より多くの金額で住宅ローンを契約可能です。そのため理想のマイホームを購入できる可能性が高まります。
手元に現金を残し計画的に返済しやすい
手元資金に余裕を持たせやすいのも、35年ローンのメリットといえます。毎月の返済額を低く抑えられるため、その分を貯金に回し、繰り上げ返済の資金作りをすることも可能です。
また子どもの教育費といった、時期が決まっている出費に対しても備えやすくなります。ライフプランと住宅ローンの返済を、無理なく実行しやすいローンの利用方法です。
3. デメリットと注意点を確認
長期間の住宅ローンには、メリットだけではなくデメリットもあります。デメリットを把握しないまま契約すると、後々の返済に影響を及ぼす可能性もあるでしょう。よく確認し、納得した上で契約することが大切です。
定年後も返済が必要になるケースも
35年ローンを契約すると、定年までに完済しないケースもあります。国土交通省による『令和元年度 住宅市場動向調査報告書』では、初めて住宅を購入する人の平均年齢は下記の通り40歳前後と報告されています。
- 注文住宅:39.1歳
- 分譲戸建住宅:36.8歳
- 分譲マンション:39.4歳
- 中古戸建住宅:42.8歳
- 中古マンション:44.8歳
最も平均年齢が若い分譲戸建住宅を購入している人でも、契約時年齢の平均は36.8歳です。35年ローンで契約すると、完済時には70歳を超えています。
多くの住宅ローンは完済時年齢を80歳前後に設定しており、そこから逆算すると45歳でも35年ローンの契約が可能です。しかし定年後も返済が続くプランでは、収入の変化にどのように対応するか計画しておかなければいけません。
出典:令和元年度 住宅市場動向調査報告書 P35|国土交通省
減給やリストラなど経済状況の悪化
長い返済期間中には、景気の後退や世界情勢の変化など、経済的な状況に影響を及ぼす事態もあるでしょう。ときには減給やリストラにより収入状況が悪化し、返済が難しい状況に陥ることも考えられます。
収入の低下は誰にでも起こる可能性があるからこそ、事前にそのリスクを考慮し対策しておくことが大切です。近年増えている『失業保険付き住宅ローン』を利用するのもよいでしょう。
離婚や死別のリスク
離婚や死別も、住宅ローン返済にまつわるリスクの一つです。例えば収入合算をして契約した場合、1人で借りるよりも借入金額が大きくなっているでしょう。離婚後に1人で返済するのは負担が重く、返済が滞るかもしれません。
また財産分与をするときに売却を選んだとしても、売買代金ではローン残高をまかないきれず現金による支払いが発生する可能性もあります。
また契約者と死別すると、一般的には団体信用生命保険(団信)によって残債が支払われるため、負担はなくなります。しかし団信への加入が任意の商品を契約した場合には、自分で保険を用意しておく必要があります。
契約者から住宅を相続すると、ローン返済の負担が重くのしかかります。
4. 長期ローンを計画的に返済するコツ
多くのメリットがある反面、デメリットやリスクもあることを把握したら、どうすれば計画的に返済できるか考えることが大切です。ポイントを押さえ、確実に返済しましょう。
無理のない借入額にする
確実に返済するには、無理なく返せる借入額での利用が大切です。年収を元に計算するシミュレーションで30,000,000円借りられる結果が出たとしても、限度額ぎりぎりでの利用は、負担が大きくなり過ぎるかもしれません。
無理なく返済できる借入額を検討するには、現在の家賃を参考にするとよいでしょう。今と同じ程度の金額であれば、無理なく返し続けられるはずです。
また固定資産税や修繕費用を見越した貯蓄額も考慮し、毎月返済に充てられる金額を決定すると、まとまった資金が必要になっても慌てずに済みます。
繰り上げ返済を活用する
余裕を持った借入額で住宅ローンを利用していれば、計画的に貯蓄ができるでしょう。金融機関の定める最低繰り上げ額が貯まったら、繰り上げ返済をすると効果的です。
毎月の返済とは別に、まとまった金額を返す繰り上げ返済は、全て元本部分に充てられます。元本が減れば支払い利息が減るため、総支払い額を少なくすることにつながる方法です。
タイミングはできるだけ早い方が、総支払い額を抑えやすくなります。返済のタイミングと金額によっては、1,000,000円以上の違いが出るケースもあります。
預貯金が貯まり次第、こまめに繰り上げ返済をすることで、当初の予定より早い時期に完済できます。
定年までに完済を目指す
一般的な会社員が定年を迎える60歳までの完済を目指すのもポイントです。60歳になると退職する人が大勢います。継続雇用で働き続けられるケースもありますが、収入が大幅に減るケースもあるでしょう。
継続雇用で働かない場合には、年金が受給できる65歳までの暮らしをどのように維持するかも考えなければいけません。
60歳は経済的に大きな変わり目となる人が多いため、この時点までに完済していた方が、その後の暮らしの見通しを立てやすくなります。
5. 無理のない返済計画を立てる方法
完済まで無理なく返し続けられるよう住宅ローンを利用するには、あらかじめ返済計画を立てましょう。どのような方法なら、無理のない返済計画を立てられるのでしょうか?
具体的にシミュレーションを行う
具体的にシミュレーションをすると、いつまでにどのくらいのペースで返済できるか明確にできます。毎月の返済額だけで完済まで目指すプランに加え、繰り上げ返済を併用した場合のプランもチェックしましょう。
具体的な数字でどれだけ総支払い額や返済期間が減少するか分かります。返済へ向けたモチベーションが高まることも期待できる方法です。
シミュレーションをするときには、インターネット上で公開されている無料のシミュレーターが便利です。簡単に住宅ローンの返済プランをイメージできます。
またExcelでも、PMT関数・PPMT関数・IPMT関数などを使い、返済額・元金・利息のシミュレーション表を作成可能です。
ファイナンシャルプランナーに相談する
シミュレーターやExcelで返済計画を具体的にイメージできたとしても、自分で計画を立てるとつい無理をしてしまいがちです。客観的な目で計画の妥当性を判断するには『ファイナンシャルプランナー』へ相談しましょう。
自分では甘く見積もってしまいがちな部分も、現実的に返済できるかを考え計算してくれます。単に年収と住宅ローンだけを見るのではなく、ライフプラン全体に無理がないかチェックしてもらえるのもポイントです。
子どもの成長に伴う教育費や将来的な収入などの変化も考慮しつつ、適切なアドバイスを受けられるでしょう。総合的な判断をしてもらうことで、暮らし全体の質も考えた返済計画を立てられる方法です。
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6. 住宅ローンの返済は計画的に
住宅を購入している多くの人が35年ローンを利用しているデータからも、長期のローンを組むのは一般的なことだと考えられます。ただし無理なく完済を目指すためには、返済計画の作成が必要です。
35年ローンであれば、最大まで借り入れたとしても、毎月の返済額を最小限に抑えられます。そのため一見無理なく返済できそうですが、長期間かけて返済していく間に状況が変化するかもしれません。
契約時には余裕のある返済額でも、定年後の収入では同じようにいかないことも考えられます。場合によっては返済が滞ることもあるでしょう。
シミュレーターやファイナンシャルプランナーへの相談を活用し、家計に合った借入をすることが大切です。