1. 住宅ローン控除の仕組み
住宅ローン控除の仕組みを解説しましょう。制度の基本的な知識を持つことで、上限額について理解しやすくなるはずです。まずは住宅ローン控除の概要を解説します。
所得税や住民税が控除される
税額の軽減につながる住宅ローン控除は、年末時点での住宅ローン残高の一定割合を所得税から控除できる制度で、正式名称は「住宅借入金等特別控除」といいます。
会社員は毎月の給与から所得税も住民税も引かれているため、あまり税額まで意識していない方が多いことでしょう。しかし、仮に年間所得税を30万円収めている人が住宅ローン控除で20万円の還付を受けられる場合は実際の納税額は10万円となり、税控除の大きさを実感できることでしょう。
所得税で控除しきれない分は住民税から
住宅ローン控除は、所得税から差し引かれた分が還付金として振り込まれる仕組みです。しかし中には所得税では全ての金額を引ききれないケースもあるでしょう。
そのような場合には『住民税』から金額が控除されます。対象となるのは2014年4月~2021年12月31日までに住宅に居住した人です。
また控除額には上限額も下記の通り定められており、計算結果が小さい方の金額が住民税から引かれます。
- 所得税で引ききれなかった金額
- 所得税の課税総所得金額等の7%(上限13万6,500円)
参考:新築・購入等で住宅ローンを組む方・組んでいる方へ 個人住民税の住宅ローン控除がうけられる場合があります。|総務省
従来は年末借入残高の1%を控除
2021年末までに入居していた場合は、『年末残高の1%』の控除を受けることができました。また、対象となる住宅ローンの限度額は4,000万円、また、所得は3,000万円以下の方が対象となっていました。
参考:No.1213 住宅を新築又は新築住宅を取得した場合(住宅借入金等特別控除)|国税庁
2. 2022年度以降の改正内容
住宅ローン控除制度は2022年に大きな税制改正がありました。購入した住宅へ2022年以降に入居する方が該当する、最新の制度を確認しましょう。改正となった背景も解説します。
改正の背景に「逆ざや」問題
住宅ローン控除制度ではかつて1%の税控除を受けることができていましたが、長引く低金利によって1%以下の住宅ローン金利を使う人が増えたことで、支払う利息よりも税控除の方が上回る「逆ざや」が問題視されてきました。
利息支払いよりも控除の恩恵が大きくなるため、不要な住宅ローンの利用に繋がっているとの指摘が相次いでいたのです。また、納税額の大きい高所得者層ほど「逆ざや」の恩恵を受けやすい制度設計になっていたことも、改正の一因になったと見られます。
控除率が0.7%に縮小。控除期間は長期化
2022年の改正により、2022年以降に入居する場合の控除率は『1%』から『0.7%』に引き下げられました。一方、控除期間は原則10年だったものが13年に延長されています。
2024年に制度全体が縮小。子育て世代は維持
住宅ローン控除制度は2024年に再度改正され、全体的に縮小されています。例えば、対象となる住宅ローン借入額の上限が減額され、2023年以前は最大で5,000万円が上限でしたが、2024年以降は上限が4,500万円となっています。
ただし、2024年は子育て世帯に限っては住宅通り最大5,000万円で維持されました。
子育て世代とは、「18歳以下の子のいる世帯」または「夫婦どちらかが39歳以下の世帯」のいずれかに該当する場合を指します。「今はまだ子どもがいないが、これから子どもができることを見越して家を買う」という30代の夫婦も対象となっている点がポイントです。
また、新築住宅は長期優良住宅や省エネ基準適合住宅といった住宅性能の基準に満たない住宅は住宅ローン控除制度の対象外となりました。政府として、新たに建てられる住宅の性能を高める狙いがありそうです。
3.住宅の種類と上限額早見表
改正後、住宅ローン控除の対象となる住宅ローン上限額は住宅の種類や入居年によって細かく分類されています。早見表を見て自分がどこに該当するか確認しましょう。
※2023年中に建築確認を受けている場合や、2024年6月30日までに建築された場合は、上限2,000万円・控除期間10年となる
3. 改正後の住宅ローン控除上限額【2024年版】
住宅ローン控除には上限額が設定されているため、ローン残高が高額でも思ったほど還付金を受け取れない可能性もあります。
2024年入居をベースにした控除の上限額のほか、夫婦2人で制度を適用されるケースもチェックしましょう。
新築で455万円、中古は210万円が控除の上限
新築で「認定長期優良住宅・低炭素住宅」に該当する場合、上限額は
・一般世帯:4,500万円 × 0.7% × 13年 = 4,095,000円
・子育て世帯:5,000万円 × 0.7% × 13年 = 4,550,000円
です。
また、中古の場合は
・3,000万円 × 0.7% × 10年 = 2,100,000円
となります。
新築なら住宅性能の高さは要確認
法律の規定に基づいて一定の認定を受けた住宅では、借入限度額が高めに設定されています。
ただし、新築住宅はその種類によって上限額が異なっています。性能についてはハウスメーカーや不動産会社の担当者に確認し、購入予定の住宅がどれに該当するかを確認すると良いでしょう。
参考:No.1213 住宅を新築又は新築住宅を取得した場合(住宅借入金等特別控除)|国税庁
夫婦それぞれが受けることも可能
住宅ローン控除はローンの契約の仕方によっては、夫婦それぞれで受けられます。夫と妻がそれぞれローンを契約し住宅を買う『ペアローン』が代表的です。
また夫婦のどちらか一方を主債務者、もう一方を連帯債務者として契約する『連帯債務』でも、夫婦それぞれが制度を利用できます。
条件によりますが、どちらか一方のみが契約するより控除額が数十万円上がるかもしれません。
4. 上限額が還付される条件
上限額は上表より住宅の性能等によって異なることが分かりました。ただし全ての人が上限額まで受け取れるわけではありません。詳しく見ていきましょう。
年末借入残高が「借入限度額」以上あること
まず挙げられるのは年末借入残高が『借入限度額以上残っていること』です。
仮に「新築の認定長期優良住宅・低炭素住宅」の場合、借入残高が5,000万円以上残っていれば最大の35万円の還付を受けることができます。しかし返済が進んだり繰り上げ返済によって5,000万円よりも小さくなると、上限額での控除を受けることができません。例えば残高が4,000万円であれば還付額は [ 4,000万円×0.7%=28万円 ] となり、上限の35万円より少ない金額になってしまいます。
期間合計で上限額まで控除を受けるには、返済が進んで残高が減っても借入限度額以上の残高を控除期間中、キープする必要があります。
控除対象となる税額合計が年間の最大控除額以上あること
住宅ローン控除は所得税や住民税から控除されます。納付した税金より多く還付されることはないため、上限額まで利用するには、支払う税額が年間の最大控除額以上なければいけません。
もし上限額である35万円の控除を受けられる残高があっても、所得税が20万円であれば還付金として受け取れるのは20万円までです。
このとき控除額と還付金の差額の15万円は住民税から控除することになりますが、住民税からの控除は上限9万7,500円と定められているため、これを超える金額は減らせません。
参考:新築・購入等で住宅ローンを組む方・組んでいる方へ 個人住民税の住宅ローン控除がうけられる場合があります。|総務省
5. 中古マンションの場合は要注意
近年は流通数が増えている中古マンションの購入を検討している人が増えています。しかし住宅ローン控除を使う場合、中古マンションでは不利になる可能性もある点に注意しましょう。
条件に適合しない場合は対象外
中古マンションの購入で住宅ローン控除を受けるには、複数の条件を満たしている必要があります。新築物件が満たすべき条件のほかにも、一定の耐震基準に適合していなければいけません。
そのためには住宅性能評価書(耐震等級1以上)の取得・耐震基準適合証明書の取得・既存住宅売買瑕疵保険への加入・築年数が耐火建築物は25年以下であること、のどれかをクリアすることが条件です。
参考:No.1214中古住宅を取得した場合(住宅借入金等特別控除)|国税庁
6. 自分の条件で控除額をシミュレーションしよう
住宅ローン控除は上限額まで適用されると、大きな節税につながります。上限額まで控除を受けるなら、限度額以上のローン残高を控除期間中ずっとキープしなければいけません。
認定長期優良住宅や低炭素住宅など性能の高い住宅であれば、借入限度額が優遇されます。また、ペアローンや連帯債務を利用すれば、夫婦がそれぞれ制度を利用できます。
控除額は自分が満たす要件により異なるものです。どのくらいの控除額か知るには、借入金額や年間の返済額を元にシミュレーションするとよいでしょう。
住宅ローン審査、ここがポイント!
通らない理由や対策を解説
住宅ローンの審査は仮審査(事前審査)→本審査の流れで進みます。仮審査と本審査は目的が異なり、仮審査は「その人に融資が可能かどうか」、そして物件の売買契約後に行う本審査では「本当に融資をしていいか」の観点での審査になります。
仮審査では審査の受付基準に合致しているかどうかや本人の返済能力、個人信用情報などが比較的簡易にチェックされます。本審査ではたくさんの書類のチェックや物件の担保価値の精査など、多岐にわたる項目を仮審査よりも厳密に審査されます。
本審査も通過したら金融機関とローン契約し、住宅の決済を行うことになります。
| 審査にかかる期間
仮審査は即日〜1週間程度、本審査は1〜2週間程度を要します。住宅購入時はなにかと慌ただしくなるため、余裕を持ったスケジュールを立てることが大切です。
| 仮審査のポイント
仮審査では大きく3つ、「本人の属性情報」「返済能力」「個人信用情報」がチェックされます。細かく見ていきましょう。
・「本人の属性情報」
申込時の年齢や完済時の年齢、年収や雇用形態、勤続年数など、金融機関が個別に定めている受付基準に合致しているかが審査されます。「正規雇用であること」「勤続1年以上であること」「年収は300万円以上」など細かな条件が金融機関ごとに定められており、それらに合致している必要があります。具体的な基準は非公表のケースが多いものの、「◯◯銀行 商品概要」と検索するとある程度は銀行公式サイトで確認できます。
・「返済能力」
収入に対して借り入れ額が過大でないかが審査されます。代表的な指標として年収に占める年間返済額の割合である「返済比率」があります。住宅ローンの年間返済額の計算には実際の金利ではなく、審査上のみ使われる「審査金利」が使われます。金融機関によって異なるものの、概ね3%前後という高めの審査金利でストレスをかけて計算されます。また、年間返済額には住宅ローンだけでなく自動車ローンやカードローンなどの借り入れの返済も考慮されます。
返済比率の上限は多くの金融機関が非公表ですが、目安は30%〜35%です。フラット35の場合は年収400万円未満なら30%、400万円以上なら35%と公表されています。
・「個人信用情報」
個人信用情報とはクレジットカードの支払いなどの履歴情報です。過去に延滞などのネガティブな履歴があると、住宅ローン審査にはマイナスに作用します。
| 本審査のポイント
本審査では様々な資料の提出のうえ、「仮審査の申告内容との相違がないか」「担保評価」が主に審査されます。
・「仮審査の申告内容との相違がないか」
仮審査で申告した年収と源泉徴収票の金額が違っていないか、借り入れがある場合はその内容が仮審査の申告内容と違っていないかなど、仮審査で金融機関に申告した内容との整合性がチェックされます。
・「担保評価」
住宅ローンで物件を購入すると、通常は金融機関によって「抵当権」が設定されます。抵当権とはいわば担保のことであり、申込人が住宅ローンの返済ができなくなったとき、その物件を売却して融資金の回収に充てるためです。そのため、購入しようとする物件の価値が借り入れ額に対して著しく低くないかをチェックされます。また物件そのもののスペック、例えば耐震基準や適法物件かどうかなども、金融機関の定める基準と照らし合わせられています。
| よくある本審査落ちのパターンやNG行為
・仮審査の申告内容と異なる点があった
仮審査と本審査で申告内容に相違があると落ちる確率が高まります。例えば仮審査で申告した年収と提出した源泉徴収票の年収が違えば、返済能力の計算が狂うことになります。
・別の借り入れを行う
住宅ローンの審査中に別の借り入れを行うと返済比率に悪影響が出ます。ローンという名称ではありませんがクレジットカードのリボ払いも借り入れと同じ扱いです。気軽な買い物が原因で住宅ローン審査に落ちる可能性もあるため注意が必要です。また、審査期間中はローンの延滞にも普段以上に注意しましょう。
・転職や退職
審査中に転職すると通過は難しくなります。金融機関は現在の勤務先で長く働き続けることを前提に住宅ローンの返済能力を見繕っているため、その前提が崩れるのです。さらに勤続年数の基準を満たせなくなる可能性が高くなります。
・健康上の問題で団信に加入できない
『団体信用生命保険(団信)』へ加入できず、住宅ローンを利用できないケースもあります。団信とは契約者が死亡したり高度障害に陥ったりした際、ローン残高を肩代わりしてくれる保険です。
生命保険のため、加入するためには過去3年ほどの病歴や治療歴などを告知しなければなりません。そのため健康状態によっては、団信の審査に通過できない場合があります。一般的な住宅ローンは団信への加入が必須とされているため、加入できなければ契約できません。
| 審査に通りやすくなるコツ・対策
・頭金(自己資金)を多めに入れて借入金額を下げる
自己資金を多めに確保して借入金額を引き下げることで審査に通りやすくなります。多くの自己資金を貯蓄できる人と言えるため、金融機関からの信頼を得やすいでしょう。
借り入れ額が安く済むため返済負担も軽減され、返済比率を引き下げることもできます。金融機関によっては自己資金の割合に応じて優遇金利を適用してもらえる点もメリットです。
・借り入れがある場合はなるべく返済しておく
自動車ローンやカードローンなどの借り入れがある場合は、なるべく繰り上げ返済をして残高を減らしておくことも大切です。返済比率を引き下げる要因になるため、審査に通りやすくなります。
・ペアローンや連帯債務、収入合算を検討する
配偶者に収入がある場合は、ペアローンや連帯債務、収入合算により審査を通りやすくすることができます。例えば年収が夫500万円・妻500万円の夫婦が5,000万円の住宅ローンを組む場合、夫1名の債務者だけでは年収倍率(年収に対する借り入れ額)は10倍と非常に高いですが、ペアローンや連帯債務で夫婦2名とも債務者になれば、年収倍率は5倍まで下がります。一般的には、年収倍率は高くても7倍以内であれば審査に通りやすくなります。
収入合算とは夫婦の片方が債務者、もう片方は連帯保証人となる方法です。こちらも連帯保証人分の年収を一定程度加味した審査を受けられるので、単独で組むよりは有利です。
| 本審査は複数の金融機関へ申し込もう
住宅ローンの本審査への申し込みは、複数の金融機関で並行することが可能です。万が一審査に落ちたり減額承認されたりしたときに備え、業務形態の異なる複数の金融機関へ申し込んでおくとよいでしょう。複数の金融機関で本審査承認を得られたら、最も希望に近い条件のプランで契約に進めばOKです。
審査通過後であっても契約に進んでいなければキャンセルできるため、契約を決めたローン以外はキャンセルしましょう。その後は金融機関と金銭消費貸借契約を締結し、融資実行日を待つだけです。
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