1. 住宅ローンの担保とは
住宅ローン契約では、金融機関が契約者に対し、担保の提供を求めるのが基本です。役割や種類など、まずは担保の基礎知識について理解を深めておきましょう。
担保の役割
金融業界における『担保』とは、金融機関からお金を借りた人が返済できなくなったときのために、他の返済方法として用意してもらうものです。
返済期間が30年以上にわたることもある住宅ローンでは、契約者が返済不能になる可能性も十分にあり得ます。審査時の属性では問題がなくても、病気や職場の倒産などで収入がなくなれば、月々の返済がストップしてしまう状況にもなりかねません。
契約者が万が一の事態に陥ったときに備えて、金融機関は契約者に担保を提供してもらいます。担保があれば、返済が止まった際も担保を換金して残債に充当できます。
住宅ローンでの担保の種類は、物的担保と人的担保の二つです。また、担保がいらないローンを『無担保ローン』といい、担保を必要とする『有担保ローン』と区別されます。
物的担保
債務者または第三者が所有する、物品や権利など特定の財産を担保にすることを、『物的担保』といいます。住宅ローンにおいては、土地や建物などの不動産を物的担保とし、抵当権を設定するのが一般的です。
物的担保のうち質権と抵当権には、『優先弁済的効力』があるとされています。優先弁済的効力とは、他の債権者に優先して債権回収を図れる効力のことです。
ローン契約者がローン以外にも債務を抱えている場合、原則として債権者間に優劣はありません。しかし、契約者の物件に抵当権を設定している債権者がいれば、持っている債権額を優先的に回収できます。
また、物的担保は物品に対する信用に依存しているため、不確実性が高い人的担保よりはるかに重要度が高いと考えられています。
人的担保
債務者が債務を履行できなくなった場合に備え、第三者に債務を負わせる仕組みが『人的担保』です。人的担保における対象者の代表例としては、保証人・連帯保証人・連帯債務者が挙げられます。
保証人と連帯保証人は、責任の重さに違いがあります。金融機関から返済請求を受けた際、保証人は債務者本人に請求する旨を主張できるのに対し、連帯保証人は債務者本人より先に請求されても応じなければなりません。
連帯債務とは、同一の債務に対して複数の債務者がいることです。夫婦が収入合算で住宅ローンを組む場合などに、片方を連帯債務者とする場合があります。金融機関は、夫婦のそれぞれに返済請求を行うことが可能です。
2. 購入する物件が物的担保となる
住宅ローン契約では、もしものときのために購入物件を物的担保とするのが原則です。物件に設定される抵当権の意味と、金融機関が抵当権を行使する状況について解説します。
物件には抵当権が設定される
住宅ローンの契約を締結する際、金融機関は購入物件に対して『抵当権』を設定します。抵当権とは、契約者が返済不能となった場合に備え、物的担保としている不動産を売却して返済に充当できる権利です。
物件に抵当権を設定するためには、『抵当権設定登記』の手続きを行わなければなりません。一般的に、登記手続きは契約者本人が行うのではなく、金融機関や指定の司法書士が行います。
抵当権登記の際は、登録免許税と司法書士に支払う報酬の準備が必要です。登記手続きが完了した後、住居の引き渡しと融資の実行が行われます。
抵当権が行使される状況とは
住宅ローンの契約者がローンを返済できなくなった場合、金融機関は抵当権を行使し、担保としている物件を競売にかけます。
競売による売却代金をローンの残債に充てて完済を図りますが、売却代金で残債の全額をカバーできなかった場合、残った分は保証会社に引き継がれます。
金融機関から引き継いだローン債権に関し、保証会社は債務者と相談し、今後どのように返済を進めていくのか決めます。一括で返済できなければ、新たなローンを組むことになるでしょう。
このように、返済不能になると物件を手放さざるを得なくなる上、完済するまで債務がついて回ります。
3. 物件の担保価値が低いと審査に通らない
抵当権を設定する物件には、より高い担保価値を求められます。ローン審査における、物件の担保価値の重要性を確認しておきましょう。
売却により残債を完済できるかが基準
住宅ローンの審査は、『仮審査』と『本審査』の2段階で実施されます。融資の可否を判断する仮審査でチェックされる主な内容は、契約者の返済能力と物件の担保価値です。
購入物件の担保価値が著しく低いと判断された場合、審査での評価は下がりやすくなります。返済不能となった際に物件を売却しても、ローン残債を完済できるだけの売却代金を得られないためです。
中古物件を購入するケースでは、担保価値の算出が難しくなるため、より慎重な審査が行われます。新築住宅を取得・購入する場合に比べ、審査期間が長くなるでしょう。
担保価値の算定は金融機関による
土地や建物の担保価値は、金融機関ごとに独自の基準を用いて行われます。価値の算定に使用されるのは、固定資産税評価額・路線価・公示地価・法定耐用年数などです。
評価額を算定した後は、金融機関ごとに定めた掛け目を使い、融資可能額を計算します。より慎重を期すため、60~80%を掛け目としているケースが一般的です。
不動産評価額が高いほど売却時の回収額も増えることから、融資可能額は高額に設定されやすくなります。ただし、評価方法や掛け目は金融機関により異なるため、基本的には同じ物件でも融資可能額に差が出ます。
審査に通過しても減額承認となる場合も
住宅ローンの審査では、『減額承認』を受けるケースがあります。減額承認とは、申し込み者の希望額より金額を下げた融資可能額なら、ローン契約を可とすることです。
物件の担保価値が低めに算定された場合に、減額承認を受けやすくなります。融資可能額が希望額に届かなければ、物件や借入方法の変更などを検討しなければなりません。
3,000万円の物件をフルローンで購入したい場合に、融資可能額2,500万円で減額承認となったら、残りの500万円は現金で支払う必要があります。ペアローンや収入合算を利用できれば、年収を増やすことで融資可能額が増額されるケースもあるでしょう。
4. 担保価値の低い物件の特徴
物件の担保価値が下がってしまう原因には、さまざまなものがあります。価値が低い物件の代表的な特徴を紹介します。
旧耐震基準のマンション
建築基準法では、住宅の耐震性を示す『耐震基準』が定められています。震度6強程度の地震にも耐えられる構造基準を定めた現行の耐震基準は、1981年に建築基準法が改正された後のものです。
1981年6月1日より前の耐震基準に基づいて建てられたマンションは、それ以降に建築されたマンションと区別するために、『旧耐震基準のマンション』と呼ばれます。
地震による建物の倒壊リスクが高い旧耐震基準のマンションは、担保価値を下げてしまう傾向があります。審査に通っても減額承認となる可能性が高いため、自己資金を多めに用意しなければならなくなるでしょう。
築年数が経過した戸建て
多くの金融機関では、戸建て住宅を評価する際、築年数が20年に達していれば担保評価額をゼロとしています。金融機関によっては、築10年で担保価値をゼロと評価するケースもあるほどです。
一般的に、木造戸建ての価値は、建築後10年経過した時点で資産価値が約半分まで下がります。築15年を過ぎたころには20%程度の価値まで下がり、築20年以降は価値がゼロに近づき、ほぼ横ばいになります。
一方、マンションは築10年でも70~80%の資産価値を維持する傾向があります。資産価値の減少ペースが緩やかであり、価値が50%を割るのは築25年が経過したころです。
戸建てはマンションに比べ、築年数が担保価値に大きく影響する点を覚えておきましょう。建築後10年以上経過した戸建ては要注意です。
不適格条件に該当する物件
住宅ローンでは、既存不適格や違法建築などの条件を示した『不適格条件』を定めています。既存不適格とは、建築時には適法であったものの、現行法では違法となる状態のことです。
不適格条件にあてはまる物件は担保価値が下がります。違法建築物件は、原則として審査に通りません。既存不適格物件は、それだけで審査に通らないことはほとんどないものの、融資限度額に影響を与えるでしょう。
不適格条件には、既存不適格や違法建築以外にも、担保価値を下げてしまうさまざまな条件が定められています。いずれの条件に該当する場合も、審査時に不利に働くことがほとんどです。
5. 希望物件に担保価値が付かなかったら
物件の状態によっては、担保評価を得られず審査に通らない場合もあります。融資を受けられなかった際の選択肢を二つ紹介します。
他の物件に変更する
希望物件が不適格条件に該当する場合、条件の内容によっては、担保価値が付かずに融資を受けられないケースがあります。違法建築物件が代表例です。
ほかにも『敷地が隣地に越境している』『住宅前面の道路が狭過ぎる』『抵当権や借地権が設定されている』などにあてはまる物件は、審査に通らない可能性が高くなります。
これらの物件は、ローンを組まずに取得できたとしても売却しにくいため、手放す際にも苦労しかねません。他の物件への変更を検討するのがおすすめです。
無担保ローンを利用
担保価値が付かない物件をどうしてもローンで購入したいなら、『無担保ローン』の利用も検討しましょう。無担保ローンとは、担保なしで融資を受けられる住宅ローンです。
無担保ローンは担保がいらないため、審査を早く進められます。抵当権設定登記を行う必要がなく、登記にかかる費用や司法書士への報酬も発生しません。
ただし、一般的には通常のローンより金利が約1%高く設定されます。返済期間も長期間にはできません。融資額も低く抑えられるため、希望額に達することはほとんどないでしょう。
6. 物件の担保価値も忘れずに確認しよう
住宅ローンの審査では、物件の担保価値が重視されます。担保価値が低いと融資を受けられない可能性があり、審査に通っても融資額を減らされるケースがほとんどです。
旧耐震基準のマンションや築年数が経過した戸建ては、担保価値を低く評価される傾向があります。担保に関する知識を身に付け、申し込み前に物件の価値を確認しましょう。
住宅ローン審査、ここがポイント!
通らない理由や対策を解説
住宅ローンの審査は仮審査(事前審査)→本審査の流れで進みます。仮審査と本審査は目的が異なり、仮審査は「その人に融資が可能かどうか」、そして物件の売買契約後に行う本審査では「本当に融資をしていいか」の観点での審査になります。
仮審査では審査の受付基準に合致しているかどうかや本人の返済能力、個人信用情報などが比較的簡易にチェックされます。本審査ではたくさんの書類のチェックや物件の担保価値の精査など、多岐にわたる項目を仮審査よりも厳密に審査されます。
本審査も通過したら金融機関とローン契約し、住宅の決済を行うことになります。
| 審査にかかる期間
仮審査は即日〜1週間程度、本審査は1〜2週間程度を要します。住宅購入時はなにかと慌ただしくなるため、余裕を持ったスケジュールを立てることが大切です。
| 仮審査のポイント
仮審査では大きく3つ、「本人の属性情報」「返済能力」「個人信用情報」がチェックされます。細かく見ていきましょう。
・「本人の属性情報」
申込時の年齢や完済時の年齢、年収や雇用形態、勤続年数など、金融機関が個別に定めている受付基準に合致しているかが審査されます。「正規雇用であること」「勤続1年以上であること」「年収は300万円以上」など細かな条件が金融機関ごとに定められており、それらに合致している必要があります。具体的な基準は非公表のケースが多いものの、「◯◯銀行 商品概要」と検索するとある程度は銀行公式サイトで確認できます。
・「返済能力」
収入に対して借り入れ額が過大でないかが審査されます。代表的な指標として年収に占める年間返済額の割合である「返済比率」があります。住宅ローンの年間返済額の計算には実際の金利ではなく、審査上のみ使われる「審査金利」が使われます。金融機関によって異なるものの、概ね3%前後という高めの審査金利でストレスをかけて計算されます。また、年間返済額には住宅ローンだけでなく自動車ローンやカードローンなどの借り入れの返済も考慮されます。
返済比率の上限は多くの金融機関が非公表ですが、目安は30%〜35%です。フラット35の場合は年収400万円未満なら30%、400万円以上なら35%と公表されています。
・「個人信用情報」
個人信用情報とはクレジットカードの支払いなどの履歴情報です。過去に延滞などのネガティブな履歴があると、住宅ローン審査にはマイナスに作用します。
| 本審査のポイント
本審査では様々な資料の提出のうえ、「仮審査の申告内容との相違がないか」「担保評価」が主に審査されます。
・「仮審査の申告内容との相違がないか」
仮審査で申告した年収と源泉徴収票の金額が違っていないか、借り入れがある場合はその内容が仮審査の申告内容と違っていないかなど、仮審査で金融機関に申告した内容との整合性がチェックされます。
・「担保評価」
住宅ローンで物件を購入すると、通常は金融機関によって「抵当権」が設定されます。抵当権とはいわば担保のことであり、申込人が住宅ローンの返済ができなくなったとき、その物件を売却して融資金の回収に充てるためです。そのため、購入しようとする物件の価値が借り入れ額に対して著しく低くないかをチェックされます。また物件そのもののスペック、例えば耐震基準や適法物件かどうかなども、金融機関の定める基準と照らし合わせられています。
| よくある本審査落ちのパターンやNG行為
・仮審査の申告内容と異なる点があった
仮審査と本審査で申告内容に相違があると落ちる確率が高まります。例えば仮審査で申告した年収と提出した源泉徴収票の年収が違えば、返済能力の計算が狂うことになります。
・別の借り入れを行う
住宅ローンの審査中に別の借り入れを行うと返済比率に悪影響が出ます。ローンという名称ではありませんがクレジットカードのリボ払いも借り入れと同じ扱いです。気軽な買い物が原因で住宅ローン審査に落ちる可能性もあるため注意が必要です。また、審査期間中はローンの延滞にも普段以上に注意しましょう。
・転職や退職
審査中に転職すると通過は難しくなります。金融機関は現在の勤務先で長く働き続けることを前提に住宅ローンの返済能力を見繕っているため、その前提が崩れるのです。さらに勤続年数の基準を満たせなくなる可能性が高くなります。
・健康上の問題で団信に加入できない
『団体信用生命保険(団信)』へ加入できず、住宅ローンを利用できないケースもあります。団信とは契約者が死亡したり高度障害に陥ったりした際、ローン残高を肩代わりしてくれる保険です。
生命保険のため、加入するためには過去3年ほどの病歴や治療歴などを告知しなければなりません。そのため健康状態によっては、団信の審査に通過できない場合があります。一般的な住宅ローンは団信への加入が必須とされているため、加入できなければ契約できません。
| 審査に通りやすくなるコツ・対策
・頭金(自己資金)を多めに入れて借入金額を下げる
自己資金を多めに確保して借入金額を引き下げることで審査に通りやすくなります。多くの自己資金を貯蓄できる人と言えるため、金融機関からの信頼を得やすいでしょう。
借り入れ額が少なくて済むため返済負担も軽減され、返済比率を引き下げることもできます。金融機関によっては自己資金の割合に応じて優遇金利を適用してもらえる点もメリットです。
・借り入れがある場合はなるべく返済しておく
自動車ローンやカードローンなどの借り入れがある場合は、なるべく繰り上げ返済をして残高を減らしておくことも大切です。返済比率を引き下げる要因になるため、審査に通りやすくなります。
・ペアローンや連帯債務、収入合算を検討する
配偶者に収入がある場合は、ペアローンや連帯債務、収入合算により審査を通りやすくすることができます。例えば年収が夫500万円・妻500万円の夫婦が5,000万円の住宅ローンを組む場合、夫1名の債務者だけでは年収倍率(年収に対する借り入れ額)は10倍と非常に高いですが、ペアローンや連帯債務で夫婦2名とも債務者になれば、年収倍率は5倍まで下がります。一般的には、年収倍率は高くても7倍以内であれば審査に通りやすくなります。
収入合算とは夫婦の片方が債務者、もう片方は連帯保証人となる方法です。こちらも連帯保証人分の年収を一定程度加味した審査を受けられるので、単独で組むよりは有利です。
| 本審査は複数の金融機関へ申し込もう
住宅ローンの本審査への申し込みは、複数の金融機関で並行することが可能です。万が一審査に落ちたり減額承認されたりしたときに備え、複数の金融機関へ申し込んでおくとよいでしょう。複数の金融機関で本審査承認を得られたら、最も希望に近い条件のプランで契約に進めばOKです。
審査通過後であっても契約に進んでいなければキャンセルできるため、契約を決めたローン以外はキャンセルしましょう。その後は金融機関と金銭消費貸借契約を締結し、融資実行日を待つだけです。
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