1.講演の概要
今回のセミナーでのバーナンキ元FRB(※)議長による基調講演では、下記の通り、コロナ禍後の米景気の動向と今後の金融政策の見通しが示されました。
※FRB:Federal Reserve Board(連邦準備制度理事会)。米国の中央銀行。
(1)コロナ禍後の米景気の動向
前トランプ政権は新型コロナウイルス感染拡大への対策を政府主導ではなく州などの行政単位に委ねるスタンスをとったため、感染症が凄まじいスピードで拡大しました。
それを受けて実施されたロックダウンにより、サービス業に従事する方を含め、所得ピラミッドの下位層が大きなダメージを受け、2020年3〜4月の2ヶ月間で米国はリセッション(景気後退)となりました。
しかし、FRBが政策金利(FF金利)を0%に引き下げゼロ金利としたほか、大規模な国債買い入れなどを行い金融市場へ資金供給したことなどから、ロックダウン解除後の2020年5月以降は米景気が急速に回復しました。
その後、景気はFRBの想定を上回るスピードで回復し、失業率やGDPはFRBの予測を上回って推移しました。
(2)今後の米景気の見通し
バーナンキ氏は、米景気の先行きに対して自信を示しました。
主な理由は以下の通りです。
✔バイデン政権が公衆衛生を重視し、急速なワクチン投与を開始している
✔バイデン政権による1.9兆ドル(約200兆円、米国GDPの約10%に相当)の追加経済対策は実現可能性が高い
✔FRBは「景気が回復しインフレ率(物価上昇率)が2%を安定的に超える状況になるまで利上げ(金融引き締め)しない」との方向性を示しており、金融緩和が長期化すると見られること
一方で、米国で金融政策を司るFRBについては以下のように述べました。
✔好景気となり、政策金利であるFF金利の利上げ(金融引き締め)に動くのは2023年後半〜2024年頃だろう
✔ただし、利上げの前にQE(国債購入等による大量の資金供給)を縮小していく必要がある
✔FRBはQE縮小を始める時期についてのアナウンスが現状は不足しており、いざ縮小を開始しようとすると、金融市場を混乱に陥れる可能性がある(株価の急落など)
(3)日本の動向について
バーナンキ氏は、日本の金融政策や景気動向についても言及しました。
主な内容は以下の通りです。
✔日本銀行(以下、日銀)はマイナス金利やイールドカーブ・コントロールといった先進的でアグレッシブな金融緩和を行っており、評価されるべきである
✔バブル崩壊後のデフレ期間が長かったため、国民の間でインフレ期待が高まりにくい土壌であることを憂慮している
✔日銀による金融緩和は最大限の努力をしているとみられ、さらなる景気刺激のために、政府による財政政策に期待したい
2.金融市場の状況
金融市場は足元の景気ではなく、先行きを読んで日々変動しています。
日米の金融市場の動向はどのようになっているのでしょうか。
(1)米国の金融市場
米国では金融緩和のもと、株価が最高値を更新するなど、先行きの米景気に自信を覗かせる市況となっています。
米国10年国債利回り(以下、米長期金利)は2月19日時点で1.34%と、コロナ禍後の最高水準にまで上昇してきています。
今後、バーナンキ氏が予想するように、ワクチン投与が順調に進んだり追加経済対策が実行されれば、米景気が堅調に回復しインフレ期待が高まることで、米金利は上昇基調となる可能性が高いものと考えられます。
参考:
株高に追い風か、変調の兆しか 金利上昇リスクを読む(2月21日、日本経済新聞)
(2)日本の金融市場
現在日本の金融市場には、日銀による大規模金融緩和で供給された資金が流入していることや、今後の景気・企業業績の回復期待から、日経平均株価が約30年ぶりの水準にまで上昇するなど、楽観的なムードが広がっています。
こうした中、株価の上昇に追随する形で国債利回りも上昇基調となっており、2月19日時点で10年国債利回り(以下、長期金利)が0.1%、20年国債利回り(以下、超長期金利)が0.495%と上昇基調です。長期金利が0.1%に到達するのは2018年11月以来となります。
(3)日銀の金融緩和の概要
モゲチェックでは、日銀の金融緩和が住宅ローン金利に与える影響について解説し、定期的に更新しています。
参考
日銀が金融緩和の維持を決定!住宅ローン金利はどうなる?【2021年1月アップデート】
米大統領選を経て、住宅ローン金利はどうなった?〜日米金利比較〜
現在の日銀の金融緩和は、
・短期金利(日銀当座預金)に対し、マイナス金利(▲0.1%)を適用
・長期金利を、0%からプラスマイナス0.2%程度の変動に留める
・10年以上の超長期金利にも、短期金利〜長期金利を抑えこむことにより、低下圧力がかかる
と、短期金利〜長期金利を政策的に低位に留めるというものです。
足元では長期金利が0.1%に到達していますが、日銀がコントロールしている範囲内(0%±0.2%)の動きにすぎません。
実際には上限の0.2%程度まで長期金利が上昇すると、日銀は指値オペという買いオペを通知することで市場を牽制するため、現状は上昇基調が続いても0.2%を大幅に超えることは起こらないようになっています。
また、上掲のグラフを見ると日本の長期金利は上昇し続けているように見えますが、ここ1年の値幅はわずか0.15%程度であり、そもそも軽微な値動きであると捉えることもできます。
(4)日銀の金融緩和が修正される?
一方で、日本経済新聞の報道でも触れられている通り、金利の値動きの幅が小さいことや、10年を超す超長期金利が低く留められることにはリスクもあります。
長短金利差を収益機会としている銀行や保険会社などの金融機関の業績を悪化させてしまうことで、結果的に消費者や企業が必要な融資を受けにくくなるなど、金融サービスの劣化によって「金融緩和の副作用」が発生してしまうからです。
日銀は2021年3月の金融政策決定会合で金融政策の「点検」を行うと既に発表しています。
この会合で、長期金利の変動幅(現在は±0.2%)が拡大されるのではないかと市場参加者は見ており、足元の金利上昇は日銀の政策修正を事前に織り込む動きともいえます。
こうした織り込みが既に始まっている状況を踏まえると、今後日銀が長期金利の変動幅を拡大するよう政策修正する可能性は高いと考えられ、それによって、超長期の金利も変動幅が大きくなるものと見られます。
そして、変動幅の拡大が許容された場合、上昇基調となっている米金利につられる形で、日本の金利も長期〜超長期で上昇地合いになると見られます。
3.住宅ローン金利への影響は?
今後ワクチン投与等で新型コロナウイルつの影響が沈静化し、日米とも景気回復が鮮明になってきた場合、住宅ローン金利はどうなるのでしょうか。
住宅ローンには大きく変動金利と固定金利がありますが、それぞれの基準金利は以下のように決定されています。
・変動金利の基準金利:短期プライムレート(以下、短プラ)+1%
・固定金利の基準金利:固定金利の期間に対応するスワップレートをベースに決定
上記の通り、変動金利は短プラに連動し、固定金利はスワップレートに連動しています。そしてスワップレートは、同じ期間の国債利回りとおおむね連動しています。
(参考:住宅ローンの金利タイプと金利決定方法)
そして、短期金利については、低金利環境の維持のため、▲0.1%のマイナス金利が継続されることが予想されています。したがって、短期金利(=短プラ)をベースとする住宅ローン変動金利については、引き続き低位安定すると予想されます。
一方、来月の金融政策決定会合で日銀の金融政策が「長期金利の変動幅を拡大する」方向で政策修正される可能性があり、この場合、短期金利に連動する変動金利は変わらないが、長期金利や超長期金利に連動する固定金利は上昇する可能性が高いと考えられます。
4.まとめ
✔米景気は金融・財政政策に支えられ、回復していく見通し
✔米国の市場金利も、景気回復に伴って上昇が続くと予想
✔日本の市場金利は、日銀の金融政策修正と米金利との連動で、上昇と予想
✔住宅ローン金利は、変動金利は変わらず低位安定、固定金利は上昇基調となる展開を予想
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変動金利・固定金利の違いとは?
特徴やメリット・デメリットを解説
住宅ローンの基本的な金利タイプで、年2回(4/1と10/1)見直しされることから変動金利と呼ばれています。
金利の急変動で利用者が困らないよう、返済額を5年間据え置く「5年ルール」や月々の返済が25%以上増えないようにする「125%ルール」を設定している金融機関も多く存在します。固定金利に変更するオプションが付帯しており、金利上昇時には固定金利に切り替えることも可能です。
| 変動金利のメリット・デメリット
メリット:銀行間の低金利競争が激しく金利水準が低いため、月々の返済額を抑えることができます。
デメリット:将来金利が上がり、月々の返済額が増えるリスクがあります。対策として、金利が低いうちにしっかり貯蓄をして万が一の金利上昇に備えると良いでしょう。
| 5年ルール・125%ルールとは?
5年ルールとは、変動金利が上がっても月々の返済額を5年間一定とするルールです。5年ルール有りの場合、最初の5年間は変わらず、6年目から返済額が増えることになります。5年ルール無しの場合、翌月や翌々月から返済額が増えます。
金利が上がっても返済はすぐには増えず、5年間は変わらないというメリットがある一方、6年目になるまでは本来より低額での返済となり、完済時に未払利息が発生する可能性がある点がデメリットとなります。
125%ルールとは、5年ルールを適用している金融機関で返済額が増える際、今までの返済額の1.25倍を上限とするルールです。例えば従来の月々の返済が10万円の場合、返済がどれだけ増えても12.5万円が上限となります。
返済額が増えても上限値があるのがメリットとなる一方、5年ルール同様に本来よりも安く返済が進むため、予定通りに残高が減らず完済時に高額返済が必要となる可能性がある点がデメリットです。
| 変動金利の推移・相場は?
変動金利はバブル崩壊以降、ほぼ一貫して低下傾向を続けてきました。しかし2024年になって日銀のゼロ金利解除により、変動金利が遂に引き上げられることとなりました。いよいよ「金利のある世界」に突入したことになります。しかしながら、依然としてネット銀行を先頭に、変動金利が顧客獲得競争の主戦場という状況は続いています。
| 固定金利とは?
文字通り金利が変わらないのが固定金利です。フラット35のような全期間固定金利のほか、5年、10年など一定期間の金利を固定する固定期間選択型もあります。
| 固定金利のメリット・デメリット
メリット:返済額が変わらない安心感があります。変動金利より金利水準は高いものの、一定期間または全期間の返済額が変わらないため、長期の返済計画や生活設計を立てやすいことが特徴です。
デメリット:金利水準が高く、返済額が多くなります。返済中に大規模な金利上昇が起こらない限り、変動金利を使った場合に比べて固定金利を使う方が多額の返済となるでしょう。また固定期間選択型の場合、6年目や11年目など固定期間が終了するタイミングで、当初固定期間よりも高い金利に切り替わることが多いこともデメリットです。
| どんな人が変動金利・固定金利に向いている?
少しでも返済額を抑えたい方やコストパフォーマンスを重視する方には変動金利がオススメです。日本銀行の金融緩和政策や住宅ローン業界の競争激化を踏まえ、モゲチェックでは変動金利は今後も低金利が続くと予想しています。
一方、固定金利は金利や返済額が変化するリスクをなくしたい方に向いています。例えば最初の10年間が子どもの教育費がかさむ時期と重なるなど、住宅ローンの返済額が増えることをどうしても避けたい方には10年固定金利がオススメです。
| 変動金利・固定金利の利用割合
変動金利を選ぶ人の割合が年々増え続け、全体のおよそ7割とほとんどの住宅ローン利用者が変動金利を選んでいます。また、固定期間選択型は2割、全期間固定型は1割であり、年々減少しています。
(出所:独立行政法人住宅金融支援機構「住宅ローン利用者の実態調査」より)
| モゲチェックのオススメは?
モゲチェックでは低金利政策が長期化する可能性が高いとの見通しや、住宅ローン業界で顧客獲得競争が激しくなっていることから、変動金利では安定した低金利が続くと予想しています。
迷った方はまず変動金利から検討することをオススメします。最新情報は住宅ローンランキングでチェック!