1.自民党総裁選挙の結果
自民党の新総裁には石破茂氏が選出されました。
新政権の顔ぶれ予想なども早速話題になっている状況ですが、注目すべきはやはり経済政策でしょう。
選挙時の記者会見では、日銀金融政策や住宅ローン金利などへ即座に影響するような発言はありませんでした。しかしながら、選挙公約や過去の発言からは、金利についても何かしらの動きがある可能性が考えられます。
いっぽう新総理誕生を受けて、市場は敏感に反応しています。ドル円相場は146円台から144円に急落しています。石破氏はタカ派(利上げ容認派)と見られており、日米の金利差縮小を見通した円買いが進んでいます。また、金融緩和派の高市氏が落選したことから、日経平均株価(先物)は急落しており、4万円をうかがう水準まで上昇していた株価が、総裁選後に38,000円台まで大幅に下落しています。新政権に対する警戒感が強い状態と言えるでしょう。
2.新総裁の公約
続いて今後想定される、日銀金融政策や住宅ローンの金利に関する新総理の考えを、総裁選公約などから検証してみます。
石破新総裁は総裁選公約で「日本銀行と連携する」「住宅ローン等の金利上昇への緊急対策を講じる」と発言しています。元銀行員としての知見を踏まえた、他候補とは異なる具体的な発言と言えます。
そうした点から、今後も日銀の金融政策(緩やかな利上げ)は認める姿勢と予想されます。また今後、もし金利が異常なペースで上昇を続けるような事態になった場合、何らかの対策を講じることも想定されます。
実際、石破氏はインタビューの中で「金融緩和という基本的政策を変えないなかで徐々に金利のある世界を実現していくのは正しい政策だ」と、現在の日銀金融政策への理解を示しています。
そして「少しでも金利のある世界というものに戻していくことによって得られるメリットもあり、それが日本の経済の構造そのものを転換することに繋がるものだ」という発言し、緩やかな利上げを認める方針を示しています。
インタビュー:金利ある世界の実現、物価上昇抑制や構造改革に資する=石破元自民幹事長 | ロイター
なお、変動金利上昇への対策ですが、住宅ローン減税を0.7%から1.0%に戻すことが考えられるでしょう。過去、変動金利の大幅な低下によって住宅ローン減税が1.0%から0.7%に引き下げられた経緯を踏まえると、変動金利上昇に歩調を合わせる形で減税額を元に戻すことが一案として考えられます。
3.日銀の金融政策への影響
新政権が日銀の金融政策へどのようにアプローチしていくか、ここも注目すべきところです。石破氏はタカ派と見られますが、高金利政策をいきなり取ることは考えづらいと想定されます。
その大きな理由の一つが株価です。政府は2024年から始めた新NISAで「貯蓄から投資へ」と大きく旗を振ってきました。そのため新政権も、株価に冷水をあびせるような高金利政策は取りづらいと考えられます。
そして、来年1月には新NISA開始から1年の節目となります。その時点でもし株価が1年前と変わらず、あるいは下がっているような状況では、国民からも大きな不満が出ることが予想されます。こうした前提を踏まえれば、新政権ではどうしても「株式市場も意識した金融政策運営」になると予想されます。
また、総裁選のとき注目された「解雇規制の緩和」(注)ですが、可能性としては低いものの、新政権で解雇規制が緩和されると賃金が上がりやすくなり、ひいては金利上昇への圧力になる可能性もあるので要注意です。その理由は、以下の通りです。
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現在の解雇規制は、政府の雇用セーフティーネット機能を民間が負担しているようなもの
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規制緩和で負担がなくなると、企業は「高給で好人材を獲得する」動きがでる
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逆に不景気になれば、又は会社の業績が悪くなれば、解雇すればいい、という動きにもつながる
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こうした情勢が広がると、好景気時における賃金の加速度は一気に高まり、賃金上昇を起点とした物価上昇のサイクルが加速し、場合によっては景気引き締めのための高金利政策を日銀が取る可能性がある
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また、景気後退時に失業率が上昇する可能性があり、失業者がローンを支払えなくなることも懸念されます。そうなると、銀行はローン金利を高く設定する可能性がある。
なお、この点に関して石破新総裁は、過去の発言で賛成とも反対とも捉えがたい発言をしています。
「労働組合の組織率が必ずしも高くない中にあって、いかにして労働者の権利が守られるか、そして経営者がいかにして有能な人材を確保するかということの両立の観点から、解雇規制の緩和については議論されるべきものだと思っている」(9月10日、政策発表記者会見)
要は慎重に進めていくべきといった趣旨なので、言い換えれば真っ向否定ではないとも考えられます。いずれにしても、住宅ローンを検討している人や、現在も返済中の人は、新政権の雇用規制緩和への対応を注視していく必要があります。
(注・解雇規制:労働者の雇用安定を図るため、解雇権の乱用を防止する規制のこと。そのため企業が整理解雇をする場合には、①経営上の必要性②解雇回避の努力③人選の合理性④労使間での協議という4つの要件を考慮しなければならない、とされている。総裁選では、企業の労働力確保にはこの規制を見直すべきではないか?と議論されたもの)
4.住宅ローン金利への影響
さて、最後になりましたが、新政権誕生は住宅ローン金利へどのように影響するでしょうか?
ここまでの説明を振り返ると、新政権には金利上昇を容認する姿勢であるものの、金利を大きく引き上げる「タカ派」的な金融政策は取りづらいと考えられ、変動金利上昇も急なものにはならないと予想されます。
ようやく日本経済が復活する兆しも見えてきた中、住宅ローン金利の急上昇を招くような政策を取れば、経済全体に冷水を浴びせることにもなりかねません。米国の景気後退も予想される中、新政権にはそのような事態を招かないよう、慎重な判断を取るものと考えられます。