1. 年収から計算する住宅ローン借入可能額
住宅ローンは年収からおおよその借入可能額を計算可能です。年収と住宅ローンの関係について知り、住宅ローンを利用できるのか、いくらくらい借りられそうか判断する目安にしましょう。
平均は年収の7倍程度
借入可能額の目安は、年収のおよそ『7倍』です。
2019年度の『フラット35利用者調査』でも、利用者の多くが下記の通り年収の6〜7倍前後の住宅ローンを契約していると分かります。
- 土地付き注文住宅:7.3倍
- マンション7.1倍
- 建売住宅:6.7倍
- 注文住宅:6.5倍
- 中古マンション:5.8倍
- 中古戸建て:5.5倍
この数値は全国平均のため、地域によってはより高い倍率で住宅ローンを借りているケースもあるでしょう。
参考:2019年度 フラット35利用者調査 P.13|住宅金融支援機構
ローンを組める下限は年収300万円が目安
『年収300万円』が、住宅ローンを契約できる年収の下限の目安です。国税庁の調査によると、2019年の平均給与は436万円のため、年収300万円台は平均より低収入といえます。
それでも実際に住宅ローンを利用し、物件を購入している人は一定数いるのです。金融機関も、年収のみで申し込みを制限しているケースはほとんどありません。
年収が低ければその分、借入可能額は下がり、審査が厳しくなる傾向がありますが、契約できる可能性はあります。家計やライフプランを考慮し、無理なく返済できる範囲内で利用するとよいでしょう。
2. 自営業の場合は基準が厳しい
同じ年収だったとしても、会社員より自営業の人のほうが住宅ローンを借りるのは難しいといわれています。なぜ自営業だと住宅ローンを借りるのが難しいのでしょうか?
金融機関は返済能力を重視する
金融機関は住宅ローンを貸し出すときに、契約者の『返済能力』を見ています。安定した経営を続けている大企業の社員が審査に通過しやすいのは、勤務先に信用があるからです。
その企業で働き続けていれば、社員は毎月一定の給料を受け取れるため、確実に返済し続けられます。企業が社員の返済能力について、信用に足るものであると証明してくれているわけです。
一方、自営業の場合には、信用できるだけの返済能力があることを自分で示さなければいけません。十分な収入が継続的にあることの証明はもちろん、携わっている事業が将来性のあるものだということもアピールが必要です。
金融機関が判断に迷う部分があると、審査の通過は難しいでしょう。
国家資格や経営の安定度が評価される
自営業者が安定経営をアピールするには、継続して一定以上の収入があることを示す資料を提出しなければいけません。2~3年分の確定申告書の提出を求められるのが一般的です。
そのため、自営業になって1年目といった駆け出しのタイミングでは、住宅ローンの契約は難しいでしょう。十分な実績と安定した収入を得られるようになってから申し込むのが賢明です。
ただし特定の国家資格を持ち事業を開始した場合には、事情が異なります。例えば医師や弁護士といった資格を持つ自営業であれば、開業から1年ほどでも住宅ローンの審査に通過するかもしれません。
3. 返済比率も重要
審査の際には返済比率も重視されます。大企業に勤務し十分な収入のある人でも、返済比率が不適切だと審査に落ちるかもしれません。返済比率の意味や上限の目安を知った上で、住宅ローンへ申し込むとよいでしょう。
返済比率の意味とは
返済比率とは年収に対する年間返済額の割合です。『年間返済額÷年収×100』で求められます。例えば毎月10万円ずつ返済している場合、年間返済額は120万円です。年収600万円であれば、返済比率は20%と計算できます。
住宅ローンへ申し込む際には、希望借入額を記載しなければいけません。このとき返済比率が基準を大きく上回る金額では、審査通過は見込めないでしょう。
金融機関ごとに基準は異なりますが、おおむね『30~35%』が審査に通過できる基準といわれています。
融資金利ではなく審査金利を適用
審査時に返済比率を求めるときには、適用される金利を元に年間返済額を算出して計算します。このとき用いられる金利が『審査金利』の場合、審査に落ちる可能性がある点に注意しましょう。
審査金利は、実際の融資時に適用される『融資金利』よりも高く設定されています。そのため返済比率35%というように上限ぎりぎりで申し込んでいるケースでは、審査に落ちる可能性が出てくるのです。
返済比率の上限
金融機関ごとに返済比率の審査基準が設けられています。フラット35の場合には、年収400万円未満は30%、年収400万円以上は35%です。
例えば年収500万円であれば、返済比率の上限は35%と設定されています。最大で年間175万円、月14万6,000円ほどが借入上限額です。
その他の金融機関では返済比率を公開していませんが、下記のように年収ごとにより詳細に基準を設けているケースもあります。
- 100万円以上300万円未満:20%
- 300万円以上450万円未満:30%
- 450万円以上600万円未満:35%
- 600万円以上:40%
4. 年収が高くても審査に落ちる理由
十分な収入があれば住宅ローンの審査に落ちることはないと考えている人もいるでしょう。しかし実際には、年収が高くても審査に落ちるケースがあります。高収入でも住宅ローンを契約できない代表的な理由を解説します。
ブラックリストに載っている
過去に金融事故を起こしており、いわゆる『ブラックリスト』に載っている状態では、住宅ローンを契約できないといわれています。ブラックリストとは、個人信用情報に事故情報が掲載されている状態のことです。
個人信用情報には、これまでの借入や返済の状況が記録されています。そこに返済の遅延や延滞などの記録があり『異動』と記されると、金融機関は信用不十分と判断し融資しない可能性が高まるのです。
一度記録された情報は、ローンやクレジットカードなどの延滞は5年間、自己破産や民事再生手続きは10年間残ります。金融機関は個人信用情報を調べるため、情報が掲載されている間は審査に通過できません。
勤続年数が短い
年収が高い人でも『勤続年数』が1年に満たないといった極端に短いケースでは、審査に通過しない可能性が高まります。国土交通省の調査では、95.6%の金融機関が勤続年数を考慮すると答えているのです。
そのうち勤続年数1年以上を基準としている金融機関が最も多く、3年以上・2年以上と続きます。この調査から、転職後すぐに住宅ローンへ申し込んでも、通過する可能性は低いといえるでしょう。
参考:令和元年度 民間住宅ローンの実態に関する調査結果報告書 P.19・32|国土交通省
健康状態に問題がある
多くの住宅ローンは団体信用生命保険(団信)への加入が必須です。団信に加入すると、住宅ローンの契約者に万が一のことがあった場合、ローン残高が保険金で全て支払われます。
ただし生命保険のため、加入には健康状態の告知が必要です。持病を抱えている人や、病歴がある人だと、審査に通過できないかもしれません。
金融機関の審査に通過できたとしても、団信に加入できなければ契約できない住宅ローンがほとんどです。そのため申し込む際には健康状態にも注意しましょう。
住宅ローン以外に借入がある
『その他の借入』により審査落ちするケースもあります。審査基準の一つである返済比率は、契約している全てのローンの合計額で計算するためです。
マイカーローンや教育ローンはもちろん、クレジットカードのリボ払いなども含まれます。例えば年収500万円の人が返済比率30%でローンを契約する場合、年間返済額は150万円です。
ほかにローンがなければ、30年の住宅ローンで4,500万円まで借りられます。しかしマイカーローンを毎月3万円返済している場合、住宅ローンに充てられる年間返済額は114万円です。
同じ30年ローンで契約しても3,420万円までしか借りられません。ほかのローンを考慮せずに申し込むと、返済比率が基準を上回り審査に落ちる原因になり得ます。
物件の担保評価が低い
住宅ローンは購入する物件に抵当権を設定するのが一般的です。抵当権は金融機関が損失を出さないために設定します。
ローンの契約者が何らかの理由で返済できなくなった際には、物件を競売にかけて売却し、残債を回収できる仕組みです。そのため物件の『担保評価』も、住宅ローンの審査基準として用いられます。
担保評価が高ければそれだけ競売で高く売却できるため、審査に有利に働きやすいでしょう。反対に担保評価が販売価格よりも下回るようであれば、借入希望額では審査に通過しない可能性があります。
5. 希望の融資額が承認されなかった場合の対処法
さまざまな理由により、借入希望額のままでは審査に通過しないことがあります。そのような場合にはどのような対処法があるのでしょうか?
頭金を増やす
希望額での借入ができないなら『頭金』を増やすとよいでしょう。物件購入時に頭金でまとまった金額を支払えれば、希望額通りの借入ができなくても物件を購入できます。
例えば4,000万円の物件を購入したいけれど3,500万円しか融資がおりないという場合、不足分の500万円を頭金として用意するのです。まとまった金額を用意できれば、着実に貯蓄ができる点を評価され審査にも有利に働きます。
また借入金額を減らすことで、利息の支払額を減らせるのもメリットです。
収入合算やペアローンを利用する
契約者の年収が少なく希望額で審査に通らないなら『収入合算』や『ペアローン』を利用するとよいでしょう。収入合算は契約者の収入に配偶者や親族の収入をプラスして審査できる制度です。
合算できる人の範囲や合算できる上限額は、金融機関ごとに条件が異なります。できるだけ多くの金額を合算したいなら、収入全てを合算できる金融機関を選びましょう。
ペアローンは一つの物件に対して、夫婦や親子で合計2本の住宅ローンを契約する方法です。夫婦でペアローンを組む場合には、夫も妻も住宅ローンの審査に通過しなければいけません。
借入額を増やせますが、産休・育休・介護休暇・傷病などにより収入が減ると、返済が難しくなるケースもあるでしょう。
6. いくら借りられるかより返せるかが重要
長い時間を過ごすマイホームだから、希望を全てかなえたいと思う人もいるでしょう。しかしそのためには返済比率の上限まで借りなければいけないかもしれません。住宅ローンは完済がゴールです。借りられる金額だけでなく、返せる金額にも注目して契約しましょう。
理想の返済比率は20%
金融機関で設定している返済比率の目安は、額面収入に対して30~35%が一般的です。この返済比率は審査に通過する信用力を評価するためのもので、契約者が無理なく返済できるプランかどうかは考えられていません。
ライフプランを考慮し検討するなら、返済比率は『手取りの20%』が理想です。手取り年収400万円であれば年間返済額は80万円、毎月およそ6万6,000円の返済だと無理なく支払い続けられます。
額面収入に対する割合で計算されるケースの多い返済比率ですが、実際に生活に直結するのは手取り収入に対する返済比率です。
額面収入の30~35%で住宅ローンを借りると、手取り収入の約半分を返済に回さなければいけないケースもあるため注意しましょう。
将来の資金計画を立てて予算を決めよう
毎月必要な生活費は、ライフステージによって変化します。子どもが生まれれば教育費の負担が増えますし、さらにその先には親との同居や介護などの可能性もあるでしょう。
ローン返済が支出の中心となる暮らしでは、一時的に出費が大きくなるタイミングに家計が立ち行かなくなる可能性があります。将来に備え生活費や予備費を確保しながら、返済できる金額を検討することが大切です。
例えば現在、マイホーム購入に向けて貯金しながら賃貸物件の家賃を払い続けているとしましょう。この状況であれば、毎月の返済額が家賃と同等の住宅ローンなら、無理なく払いつつ予備費も貯められるはずです。
7. 住宅ローンは無理のない金額で借入を
住宅ローンの借入金額は、年収に対する年間返済額の割合である返済比率がポイントです。金融機関では返済比率の上限を30~35%と設定しているケースが一般的で、この範囲内であれば借入できるでしょう。
ただし返済比率の上限は審査用の基準であって、必ずしも自分のライフプランに合っているわけではない点に注意が必要です。上限まで借りていると、出費が多くなるタイミングで生活費が不足する可能性もあります。
余裕を持って返済するなら、返済額が手取り収入の20%以内に収まる金額を目安に検討するとよいでしょう。