1. 子どもが入院する可能性はどれくらい
子どもの入院費を考える前に、子どもが入院する確率を知っておきましょう。公式データに見られる、子どもの入院の可能性について解説します。
厚生労働省のデータでは0.1~0.2%
厚生労働省の『令和5年 患者調査の概況』では、人口100,000人に対する入院した人の数が、年齢階級別に示されています。
0歳群は1237人と70歳以上を除き最も多くなっていますが、1~24歳までの年齢階級では多くても1〜4歳群の153人で、割合に直せば0.1~0.2%です。中でも5~9歳群と10~14歳群は、それぞれ100人未満に収まっています。
25~29歳群で入院した人の数は182人で、以降は年齢が上がるごとに増えています。全年齢の平均は945人、割合に直すと約1.0%です。0歳児を除いた子どもの入院リスクは、大人に比べ低いことが分かります。
参考:令和5年(2023)患者調査の概況(2 受診率)|厚生労働省
2. 子どもの入院費は多くが援助の対象に
ほとんどの自治体では、子どもの入院費が助成の対象となっています。助成内容は自治体により異なるため、例として東京都の助成制度を紹介します。
乳幼児医療費助成(マル乳)
東京都が実施する乳幼児医療援助制度で、健康保険の対象となる医療費や薬剤費の自己負担分2割が助成されることで、自己負担が無料になる制度です。対象は都内各市区町村内に住所を有し、義務教育就学前までの乳幼児です。
入院中に病院で出された食事の費用は、助成の対象外です。市区町村によっては、食事代の助成を行っているケースもあります。制度を利用するためには、『マル乳医療証』の提示が必要です。
義務教育就学児医療費助成(マル子)
乳幼児医療費助成の対象年齢が過ぎた直後から、15歳に達した後、最初の3月31日までの児童が対象となる制度です。東京都に住む小学生・中学生に対し、医療費の自己負担分の一部または全部が助成されます。
入院に関しては、健康保険の自己負担分3割の全額を助成してくれます。入院中の食事代は自己負担です。通院の場合は、1回につき200円を超える分の自己負担分が助成されます。
マル乳とマル子のどちらも、市区町村により所得制限などの利用条件が設けられています。手続きの際は、自分が住んでいる自治体へ直接問い合わせましょう。
参考:義務教育就学児医療費の助成(マル子)|東京都福祉保健局
自治体によって助成内容はやや異なる
国の医療保険制度では、未就学児の医療費自己負担割合を2割、小学生以上は3割と定めています。国ではこれ以上の補助・助成制度を設けていません。
子どもの医療費助成制度は、各自治体が公費で行う地方単独事業です。自治体により、政策・予算配分・財政状況が異なるため、助成内容も自治体ごとに異なっています。
各自治体で違いが出る主なポイントは、子どもの年齢・入院と通院の違い・親の所得制限・負担金の有無などです。内容こそやや異なるものの、現在は全ての都道府県・市区町村で、子どもの医療費助成が実施されています。
3. 医療費助成を受けるための手続きは
子どもの医療援助制度を利用するためには、医療証を発行してもらい、医療機関に提示しなければなりません。役所での交付申請や医療機関での手続きについて解説します。
医療証の交付申請をする
医療証を発行してもらうためには、住民票のある市区町村の役所に行き、所定の手続きを行う必要があります。『子ども』『子育て』などが名称に含まれている部署で、交付申請できるでしょう。
手続きに必要な書類は、交付申請書・子どもの健康保険証・朱肉で押す印鑑・子どものマイナンバーを確認できる書類・申請者の身元確認書類などです。
多くの場合、交付申請書は役所のウェブサイトからダウンロードできます。転勤などの理由で子どもの健康保険証が手元にない状況でも、保険資格取得証明書を提出すれば、医療証を発行してもらえます。
医療証を持って医療機関で手続きする
医療機関で医療費助成を受けるためには、役所で発行してもらった医療証を、医療機関の窓口で提示しなければなりません。子どもの健康保険証も一緒に提示します。
各自治体が発行した医療証を取り扱っている医療機関なら、自己負担分のうち助成分を窓口で支払う必要はありません。全額分の助成を受けられる場合は、窓口負担なしで診療や調剤を受けられます。
自治体によっては、医療証を取り扱っている医療機関を利用しても、助成分が後から償還されるケースもあります。この場合は、自己負担金をいったん窓口へ支払わなければなりません。
4. 医療費助成、こんな場合は要注意
医療証が手元になかったり、県外で使えなかったりするケースでは、払い戻しを受けるために注意すべきポイントがあります。引っ越しをした場合に気を付ける点もチェックしましょう。
医療証を受け取る前に受診した
子どもが生まれたばかりのときや、役所の手続き時にその場で医療証を発行してもらえなかった場合は、医療証がない状態で病院にかかるケースがあります。
医療証を提示できなければ、病院の窓口で自己負担分をいったん支払わなければなりません。病院の領収書を役所へ持参し、所定の手続きを行うことで、助成分の払い戻しを受けられるでしょう。
後から払い戻しの申請を行う場合は、申請期限がある点に注意が必要です。期限は自治体により異なるため、役所に行く時間がなかなか作れない場合は、いつまでに申請すればよいのか確認する必要があります。
帰省中に子どもが医療機関にかかった
医療証の提示で助成を受けられるのは、発行元の自治体がある都道府県内に限られます。県外への帰省中に子どもが病院にかかっても、医療証を提示して助成を適用してもらうことは、原則として不可能です。
ただし、医療機関にかかったことを証明できれば、後日助成分の払い戻しを受けられます。領収書を持って役所へ足を運び、払い戻し申請を行うことで、支払った分を返してもらえるでしょう。
医療証を受け取る前に病院にかかったときと同様、申請期限に注意が必要です。領収書も紛失しないよう、大事に保管しておきましょう。
引っ越しをした
引っ越しにより子どもの住所が変わった場合は、所定の手続きを行う必要があります。同じ市区町村内へ引っ越したのなら、住所変更届を提出すれば問題ありません。
引っ越し先の住所が今までと違う市区町村であれば、その自治体の医療証を新規で発行する必要があります。それまで利用していた医療証は返却しなければなりません。
引っ越し前に医療証の返却手続きを行い、引っ越し後に新しい住所のある自治体の役所で発行申請します。それぞれに期限が設けられているため、引っ越すことが分かった段階でスケジュールを決めておきましょう。
5. 入院では医療費以外にかかる費用も
子どもが入院すると、医療費以外に差額ベッド代・食事代・交通費などがかかります。入院費を考える場合は、これらの費用も頭に入れておく必要があります。
差額ベッド代
入院時に大部屋以外を選択すると、差額ベッド代を請求されるのが一般的です。例えば、大部屋が3,000円で個室が8,000円の病院なら、個室を希望すると1日あたり5,000円の差額ベッド代が発生します。
差額ベッド代は医療費ではないため、健康保険が適用されず、原則として助成も適用されません。入院期間が長期にわたれば差額ベッド代も高額になるため、大きな負担になります。
小さな子どもが入院する場合は、夜泣きや付き添いを考慮して個室を選ばざるを得ないケースがあります。入院費を考える上で、重くのしかかる問題だといえるでしょう。
食事代
入院中の食事代は、1食につき460円まで自己負担です。残りの費用は、食事療養費として健康保険が負担します。自治体によっては、子どもの医療援助制度で460円が助成される場合もあります。
ただし、入院中の子どもに付き添い人が付く場合、付き添い人の食事は自分で用意するなど全額自己負担です。病院によっては食事を出してくれるケースもありますが、その場合でも実費で支払わなければなりません。
付き添い人の食事は弁当や惣菜などになりやすいため、普段の食費に比べ高くなりがちです。子どもの食費だけでなく、付き添う人の食費も頭に入れておく必要があります。
交通費
入院や通院で交通費が発生した場合は、医療費控除の対象となる可能性があります。付き添い人の交通費が医療費控除の対象になるかどうかは、付き添う必然性の有無がポイントです。
子どもが退院した後に通院を余儀なくされた場合、子ども1人での移動が難しいなら、付き添い人の交通費は控除対象として認められます。子どもが心配だという理由だけでは、控除の対象にはなりません。
子どもの入院中に世話をするために病院へ通う際の交通費も、付き添い人が通院しているわけではないため、医療費控除の対象外です。
6. 子どもにも医療保険は必要?
子どもは入院のリスクが低く、助成制度も充実しているため、医療保険に入る必要はないでしょう。ただし、医療保険に加入しておけば、万が一の際に安心です。
基本的に子どもに医療保険は不要
厚生労働省のデータからも分かるとおり、子どもが入院するリスクは、大人に比べてかなり低めです。医療保険はリスクに備えるものであるため、リスクが低い子どもの入院のために、保険へ加入する必要はないといえるでしょう。
たとえ子どもが入院したとしても、各自治体が実施する医療助成制度によりサポートを受けられます。多くの自治体で、入院への助成を手厚く設定していることもポイントです。
病気やケガでの通院のために、医療保険を検討する人も多いでしょう。しかし、医療保険は入院や手術に対する給付がメインです。通院での経済的な負担を心配する場合でも、多くのケースでは自治体の助成制度でまかなえるでしょう。
より万全を期すなら選択もあり
各自治体の子ども医療助成制度は、あくまでも医療費の自己負担分の一部または全部を助成するだけの仕組みです。差額ベッド代や食事代など、保険適用外の部分については、自分で用意しなければなりません。
民間の医療保険に加入しておくことで、行政のサポートではまかなえない費用を確保できる可能性があります。より万全を期すなら、医療保険を選択肢に入れるのもよいでしょう。
子どもが小さいうちから終身医療保険に加入すれば、より安い保険料で一生涯の保険を確保できる点もメリットです。学資保険や親の保険に、特約として子どもの医療保険を付帯させる方法もあります。
7. もしもの場合に慌てないよう知識を持とう
全国の自治体では、子どもの医療費負担を助成する制度が整っています。万が一入院した場合でも、医療費や薬代を援助の対象とするのが一般的です。
入院費を考える際は、差額ベッド代や食事代など、医療費以外に発生する費用も考慮する必要があります。子どもの医療費に関する知識を持った上で、もしものときの備えも意識しておきましょう。