1.融資実行前の退職・転職は絶対NG
退職や転職を検討している人が住宅ローンを申し込む場合は、離職するタイミングに注意が必要です。気を付けるべきポイントを確認しておきましょう。
審査内容が変わるのでやり直しに
住宅ローンの審査では、年収・勤務先・勤続年数など、現在の勤務状況から分かるさまざまな情報が重視されます。退職や転職を行うと属性が変わるため、融資実行前に退職・転職をした場合は再審査を受けなければなりません。
仮審査と本審査を通過し住宅ローン契約を締結した後も、融資が実行されていないタイミングで退職や転職を行うと承認は取り消されます。
ただし、融資実行後に退職・転職をした場合は、返済が滞らない限り金融機関から何らかの指摘を受けることはありません。融資実行時に住宅ローンの契約締結が完了するためです。
再審査で落ちる可能性がある
融資実行前に退職や転職を行っても、再審査に通過すれば住宅ローンを利用できます。しかし、退職や転職による再審査は、落ちる可能性が高まる点に注意が必要です。
転職直後の審査では、勤続年数が1年未満になってしまいます。多くの金融機関では、1年以上の勤続年数を利用条件として定めているため、勤続年数不足で落とされることがあるでしょう。
転職時には年収が確定していないことも、審査で不利に働く要素の一つです。ローン審査では月収とボーナスで年収を計算しますが、転職直後はボーナスをもらっていないため、年収計算に含まれません。
年収が低ければ審査時にマイナス評価となり、ローンを組めなかったり、希望額から減額されたりする可能性があります。
2.住宅ローン返済中に退職する場合の注意点
ローン完済前に退職する場合は、退職後も返済可能か検討する必要があります。住宅ローン控除を受けている人は、確定申告が必要になることも覚えておきましょう。
無理なくローン返済ができるか検討
住宅ローンの返済中に退職を検討する際は、退職金・ローン残債・家計を確認し、現状をしっかりと把握することが大切です。退職金から返済にいくら回す必要があるのかなど、残りの返済期間や月々の返済額などを考慮して計画を立てましょう。
退職金を頼りにし過ぎるのも要注意です。計算上は退職金でなんとかローンを完済できても、現実的には生活費のほかにさまざまな費用が発生します。
病気やケガで入院を余儀なくされたり、自宅のバリアフリー化でリフォームが必要になったりと、高額な出費が発生するシーンも少なくありません。退職金の一部は、万が一のための資金として残しておく必要があるでしょう。
控除を受けるには確定申告が必要な場合も
住宅ローン控除の適用を受けている場合、2年目以降は職場の年末調整で控除の手続きを行えます。しかし、退職後に再就職しないまま年末を迎えるケースでは、年末調整ができないため翌年に確定申告をしなければなりません。
退職した年に年末調整を受けていない場合は、その年における所得税が計算されていません。翌年の確定申告で税金の還付を受けられる可能性が高いため、控除の手続きと併せて所得税の申告も行いましょう。
退職した年に再就職した場合は、再就職先の年末調整で控除の手続きを行うことが可能です。改めて再就職先に提出しなければならない書類がある場合は、年末調整の提出に間に合うように入手しましょう。
3.定年退職時に残債が残っている場合の選択肢
定年後もローン返済が続く場合は、退職金や自己資金で繰り上げ返済を行うことで、返済負担を軽減できます。繰り上げ返済の種類と、それぞれの特徴を理解しましょう。
全額繰り上げ返済する
ローンの残債を一括で完済する方法が、『全額繰り上げ返済』です。ネット上で手続きできる場合も多い『一部繰り上げ返済』と異なり、一般的には電話や窓口できちんと手続きを始める必要があります。
ローンを完済すると、金融機関が物件に設定している抵当権を抹消しなければなりません。抵当権抹消手続きは、契約者が自分で行う方法と、専門家に依頼する方法があります。
全額繰り上げ返済を行う目安は、ローンの金利が1.5%以上かつ利息が100万円以上残っている状態です。一括で完済しても、低金利なら利息面でのメリットはそれほどありません。
一部繰り上げ返済する
定年退職時に残債がある場合は、一部繰り上げ返済で減らす選択肢もあります。一部繰り上げ返済には、『期間短縮型』と『返済額軽減型』の2種類があります。
期間短縮型は、毎月の返済額を減らさずに、残りの返済期間を短縮するタイプです。総利息額が減るため、トータルの返済負担を軽減できます。
毎月の返済額を減らしたい場合は、返済額軽減型を選びましょう。残りの返済期間はそのままですが、目の前の家計改善効果を期待できます。
4.定年退職時の一括返済にはデメリットも
退職金や余剰資金を使ってローン残債を一括返済する方法には、メリットとデメリットがあります。それぞれを理解した上で、一括返済するか慎重に検討しましょう。
その後の返済の心配がないのはメリット
定年退職時に残債を一括返済すれば、老後にローンを返済する必要がなくなります。年金やその他の収入を、ほぼ全て生活費に充てられる点がメリットです。
多くの人にとって、定年後の収入のほとんどは公的年金となるでしょう。自分が受け取れる年金額をある程度予想できている上で、老後の生活に不安がある場合は、ローンの返済負担が重くのしかかることにもなりかねません。
しかし、ローンを一括返済しておけば、返済できなくなる不安を抱えずに老後生活を送れます。定年退職後に安心して過ごしたいと考える人は、一括返済するのがおすすめです。
老後資金に不安が出る場合も
定年時にもらえる退職金は、老後を不安なく過ごしてもらうために職場が用意するお金です。万が一のことがあったときのために、できるだけ温存しておくべきお金といえます。
退職金で住宅ローンを完済すると、老後資金として残すお金が少なくなります。退職金のほかに十分な自己資金がなければ、老後の医療費や介護費に充てるお金が不足しかねません。
車の買い替え費や家のリフォーム費など、老後は病気や介護以外にも多くの出費が発生します。老後の生活費だけでなく、急な出費への備えも考慮した上で、余裕がある分を繰り上げ返済に充てる必要があるでしょう。
団信が終了する点にも注意
一般的に、住宅ローン契約時には、契約者の死亡時に保険金でローンを完済できる団信への加入を求められます。団信を生命保険の代わりとしている人も多いでしょう。
一括繰り上げ返済でローン残債を完済すると、住宅ローンの契約が終了するため団信も終了します。他の保険に加入していない場合は、一般の生命保険に加入し直すことも検討せざるを得ないでしょう。
60歳以降に一般の生命保険へ加入する場合、基本的に保険料は割高です。健康状態によっては、保険に加入できないケースも考えられます。退職金でローンの一括返済を検討する際は、団信の保障がなくなる点に注意が必要です。
5.住宅ローン返済中に失業してしまったら
失職してローンの返済ができなくなった場合の対処法を解説します。滞納が続いたケースでの流れも知っておきましょう。
すぐに金融機関に相談を
住宅ローンの返済中に職を失い、月々の返済ができなくなった場合は、早めに金融機関に相談しましょう。すぐに連絡することで、その後の流れが良い方向に進みやすくなります。
失業により返済が滞ったら、金融機関はできる限りの見直しを検討してくれるのが一般的です。返済期間を変更して月々の返済額を減らしたり、返済を一定期間猶予したりするなど、契約者に寄り添った対応をしてもらえます。
金融機関によっては、失業時に支払いが免除される保険を、住宅ローンに導入しているケースがあります。自分の職場に不安があるなら、このようなタイプのプランを選ぶのも一つの方法です。
滞納が続くと一括返済を求められる
住宅ローンの返済ができなくなり、相談も行わずに滞納が数カ月続くと、金融機関や保証会社から残債の一括返済を求められます。
それでも返済ができない場合、住宅に抵当権を設定している金融機関は、担保に入れている住宅を競売にかけます。住宅の売却代金を残債に充当するためです。
競売による住宅の売却代金が残債を下回る場合は、さらにローンが残ります。残りのローンの支払い方法を話し合った上で、金融機関や保証会社に返済し続けなければなりません。
支払いが困難なら任意売却を検討
競売による住宅の売却は、思うような金額にならないことがほとんどです。売却代金が残債より少ない場合は、家を手放した上にローンも残ってしまいます。
支払いが難しい場合は、住宅を競売にかけられる前に、任意売却を検討しましょう。自分で売り先を探せる任意売却なら、競売より高く売れる可能性があります。
金融機関は住宅に抵当権を設定しているため、契約者が勝手に自宅を売却することは不可能です。任意売却を行うには、金融機関の承諾を得なければなりません。
6.返済計画の見直しには借り換えを検討
転職により返済計画の見直しが必要となった場合は、住宅ローンの借り換えも検討しましょう。40代くらいまでの人や、残債が多い人におすすめです。
住宅ローンの借り換えとは
利用中の住宅ローンから、まったく新しい住宅ローンに切り替えることを、住宅ローンの借り換えといいます。
金利が低いローンに切り替えれば返済額を減らせることが、借り換えの大きなメリットです。将来の金利上昇リスクに備えて、変動金利から長期固定金利への変更もできます。
団信の内容を見直せる点もポイントです。利用中の団信より魅力的な団信がある場合に、住宅ローンの借り換えを行えば新しい団信に加入できます。
借り換えのデメリットとしては、諸費用が発生することが挙げられます。新しくローンを契約するため手数料などの諸費用がかかり、金額によっては返済負担を減らせないケースがあります。
年齢制限に注意
住宅ローンの借り換えは、新しい契約を行うことになるため、通常の申し込み時と同様に金融機関の審査が行われます。借り換えの際に注意すべき審査項目が、借入時と完済時の年齢です。
一般的に、住宅ローンにおける完済時年齢の上限は80歳に設定されています。また、借入時の年齢は、20歳から70歳前後までとなっているのがほとんどです。
年齢制限の上限をクリアしても、基本的に年齢が上がるほど審査は厳しくなる傾向があります。定年を迎える60歳や65歳以降は、収入がなくなることも考慮しなければなりません。
返済期間が短くなるほど、月々の返済負担が増加するのもポイントです。一般的なサラリーマンなら、50歳を超えると条件が厳しくなりやすいことも覚えておきましょう。
勤続年数にも注意
転職後に借り換えを検討する場合は、勤続年数に注意しましょう。
住宅ローン審査では、勤務先での勤続期間の基準を満たしていないと、審査が通りません。基準としては最低でも1年以上であることが一般的です。
なので、転職直後に借り換えを行うことは現実的には難しいのです。
転職してから1年程度勤めて、それから借り換えの申し込みを進める方がおすすめです。
住宅ローン借り換えの手順
住宅ローンの借り換えを行う際は、新規借入の場合と異なり、二つの金融機関と同時に手続きを進める必要があります。
最初に借り換え先の金融機関から審査を受け、本審査に通過した時点で利用中の金融機関に完済する旨を伝えます。借り換え先の金融機関とローン契約を締結し、融資の実行を受けた後、利用中のローンを完済すれば完了です。
抵当権の抹消と新しい抵当権の設定は、利用中のローンを完済した後に行います。抵当権登記が済んだ後、新規に契約した金融機関への返済が開始されます。
7.退職前に資金計画を立てよう
住宅ローンの返済中に退職する場合は、残債があるなら繰り上げ返済を行うことで返済負担を減らせます。ただし、一括返済すると老後資金に不安が出かねないため、退職までに資金計画を立てておくことが重要です。
返済中に失業して返済不能になったら、一括返済を求められる前に金融機関へ相談しましょう。返済計画を見直す際は、借り換えを検討するのも一つの方法です。