1. 住宅ローン返済中の物件は賃貸に出せない
急な転勤や介護などで、ローン返済中の住居が空き家状態になった場合、収入面だけではなく管理の面からも賃貸に出すという選択肢は魅力的です。しかし実際のところ、住宅ローン返済中の住居は賃貸に出せるのでしょうか?
住宅ローンは自己居住用物件のためのローン
結論からいえば、基本的に住宅ローン返済中の住居は、そのまま賃貸に出すことはできません。
ただし、一定の条件を満たす場合や借り換えを行えば、賃貸に出すことができます。
その背景には、住宅ローンが持つ基本的な性質があります。住宅ローンはあくまで契約者がその家に居住することを前提に、低金利に設定されているためです。
例えば不動産投資の一環として、最初から賃貸する目的で購入する住居には、住宅ローンの利用が認められていません。
勝手に賃貸に出すと契約違反になる
住宅ローンを借りるにあたり、金融機関と契約者の間では民法587条が規定する『金銭消費貸借契約』が結ばれます。
住宅ローンの場合には、借主は自分またはその親族が居住する物件購入のために金銭を借り受けると規定されているため、賃貸に出して第三者が居住すると契約違反にあたります。
住居は生活に必要不可欠なものであり、住宅ローンを活用することでより多くの人が住宅を確保しやすくするというのが住宅ローン本来の機能です。そのために金利がかなり低めに設定されており、さらに税制上の優遇も認められています。
つまり住宅ローンはその性質上、投資目的の利用が禁じられているのです。賃貸に出すと結果としてそこから収益が生まれることになってしまうため、NGとされています。
賃貸併用住宅の場合は可能
ただし、住宅ローンで建築した住居であっても、『賃貸併用住宅』の場合には第三者への貸し出しが認められています。
賃貸併用住宅とは、1階を自宅部分、2階を賃貸部分というようにフロアで分けたり、壁を仕切りとして左右を分割して住み分ける住宅のことです。いずれの場合でも、自己居住用の床面積が全体の50%以上であれば、住宅ローンを組むことができます。
つまり賃貸併用住宅の場合、そもそも住宅の一部を賃貸に出すことを前提に建設されているため、住宅ローンを返済中であっても第三者へ貸すことが可能なのです。
2. 勝手に賃貸に出した場合のリスク
では、住宅ローン返済中に金融機関に無断で第三者に貸し出した場合、借主にはどのようなリスクが生じるのでしょうか?
一括返済を求められる
もし契約違反が発覚した場合には、住宅ローンを融資した金融機関から指導を受けることになります。さらにこの指導に従わずに賃貸を続けた場合には、『期限の利益の喪失』条項に従い、住宅ローンの残金の一括返済を求められます。
またこうした不正が発覚した場合は、当然のことながらその後、当該金融機関との取引が難しくなります。ビジネスなどでその金融機関をメインバンクにしている場合などは、ビジネス面にも影響が出る可能性が否定できません。
刑事告訴される可能性も
契約違反が発覚し、悪質だと判断された場合には、金融機関は借主に誤った条件を提示されて騙されて住宅ローンの貸し出しを行ったと判断され、民法上の詐欺(民法96条)や刑法上の詐欺罪(刑法246条)に該当する可能性もあります。
つまり金融機関から刑事告訴される可能性もあるわけです。この場合にも、金融機関は住宅ローン契約を取り消すことができるため、借主は貸し付けた金銭の残金の一括払いを求められます。
3. 賃貸に出したい場合の対策は?
しかし実際に、転勤や介護といったやむを得ない事情で転居を余儀なくされる場合、住宅ローンを支払いながら別の住居で生計を立てるのが経済的に厳しい場合もあるはずです。
そのようなケースで賃貸に出したい場合には、どのような対策があるのでしょうか?
やむを得ない事情があれば金融機関へ相談
転勤や介護の必要が生じるといった将来のリスクの全てを、住宅ローンの契約前に予測することは不可能です。
こうした予測不能な、いわばやむを得ない事情が生じて住宅ローン返済中の住居を賃貸に出す必要が生じた場合には、まずは金融機関に相談することで、賃貸住宅への転用を認められるケースもあります。
その際に交渉の論拠となるのが、契約書に設けられた条文です。
『借入後に住宅ローンの融資対象物件を賃貸物件としたり、譲渡をする場合には、あらかじめ銀行の承諾を得るものとする』といった条文が記載されている場合には、結果の可否にかかわらず、交渉の余地はあることになります。
ただし、金融機関によっては賃貸への転用を一切認めない場合もあり、結果の可否に関しては金融機関ごとに判断が異なります。
投資用ローンに借り換える
もし賃貸に出すことを金融機関から認められなかった場合で、どうしても賃貸に出したいといったケースでは、住宅ローンから賃貸住宅向けのローンに借り換えるのが一般的です。
ただし前述の通り、住宅ローンはそこに居住することを前提として金利や税金控除の面で優遇されているため、賃貸住宅向けのローンに借り換えた場合には、基本的には金利が上がり、さらに住宅ローン控除も適用されません。しかし、家賃収入が得られることでうまく相殺できる可能性も十分あります。
ただし、住宅ローンから不動産投資ローンへの借り換え方法は、住宅ローンと異なりネットにほとんど公開されていません。
インベース(旧モゲチェック不動産投資)が不動産投資ローンへの借り換えWeb診断を無料提供していますので、借り換えできるかどうか確認してみるとよいでしょう。
なお、借り換えに際しては手数料、印紙税、抵当権の設定費用などが発生します。
そのため、賃貸住宅向けのローンに借り換えることで増す負担と、賃貸に出すことで得られる家賃収入の収支バランスについては、事前に十分に確認する必要があります。
>>住宅ローンと不動産投資ローンの違いはこちらの記事でもチェック!
不動産投資ローンと住宅ローンの違いは?借り換え方法や注意点も解説
4. 住宅ローン返済中に賃貸に出すのはNG
やむを得ない事情で家を空ける必要が生じた場合の対処法には、大きく分けて『貸す』『売却』『空き家のまま』の三つの選択肢があります。
住宅ローン返済中の住宅を賃貸に出すことは基本的にNGであり、認めてもらうためには金融機関と交渉を重ねたり、支払いの負担が増えるローンへの借り換えなどを強いられます。さらに賃貸に出した場合でも、管理の手間や費用が発生します。
どの方法を選択するのかは、転居期間がどのくらいに及ぶかなど、将来的な展望を見据えながら最善の選択をする必要があります。