1. 住宅ローンとセットで契約する団信とは
住宅ローン審査では、団信への加入を融資条件に設定しているのが一般的です。団信の契約者なら、自分の健康リスクが低いことを金融機関にアピールできます。
団体信用生命保険のこと
団信とは、住宅ローンの契約時に加入する生命保険です。正式名称を『団体信用生命保険』といいます。
加入者と保険会社が契約を締結する一般的な生命保険と違い、団信は住宅ローンの融資を受ける金融機関を通して保険契約を締結するのが特徴です。
一般的な生命保険では、家族などの死亡保険金受取人が保険金を受け取ります。一方、団信では金融機関に死亡保険金が直接支払われるという違いがあります。
加入を融資の条件としている金融機関が多い
住宅ローンを取り扱う金融機関では、団信への加入を融資の条件としているのが一般的です。例えばソニー銀行の住宅ローンは、銀行指定の団信に加入しなければ利用できません。
住宅ローン審査でチェックされる項目の中でも、健康状態の確認はほとんどの金融機関が最重要視しているポイントです。
団信に加入する際、加入者は自分自身の健康状態を告知する必要があります。加入後に健康状態が悪化し、告知義務違反が発覚した場合、加入者は家族に多額の借金を背負わせることにもなりかねません。
加入者から正しい告知がされていることを前提に、金融機関は団信への加入を融資条件の一つに設定し、健康不安による返済滞納のリスクを抑えているのです。
2. 保険の種類と特約から必要な保障を選ぶ
団信にはさまざまな種類があり、取り扱う金融機関ごとに特約の内容も異なります。保障の選び方など、団信を決めるポイントを押さえておきましょう。
名称や特約は金融機関によってさまざま
団信を取り扱う金融機関により、団信の名称や付帯する特約はさまざまです。同じ金融機関の団信が、保障内容によりいくつかのプランに分かれているパターンもあります。
例えば、じぶん銀行には『がん100%保障団信』『11疾病保障団信』、ソニー銀行には『3大疾病団信』『生活習慣病団信』などの保障プランが用意されています。
団信を選ぶ際は、特約による保障内容を細かく確認し、保険金が支払われる条件や保険料の負担額をきちんとチェックすることが重要です。
りそな銀行が提供する住宅ローン『凛next』のように、女性向けの特約が選択可能な保険に加入できる住宅ローンもあります。
3大疾病、7大疾病保障などは必要か
団信の多くは、疾病保障を特約で付けられます。3大疾病・7大疾病・全疾病など、対象となる病気の範囲は特約によりさまざまです。
3大疾病とはがん・急性心筋梗塞・脳卒中を指し、7大疾病は3大疾病と糖尿病・慢性腎不全・高血圧性疾患・肝硬変を指します。
特約を付ける場合は、住宅ローンの金利に0.1~0.5%程度を上乗せするのが一般的です。契約後に特約を付けたり解約したりできないため、契約時に判断する必要があります。
無料で提供される特約以外は、コストや年齢、すでに加入中の保険内容などを考慮したうえで、ローン完済時に保障がなくなることも踏まえて判断しましょう。
現在加入中の保険の見直しを
団信は契約者の生命保険の役割も担います。すでに別の生命保険に加入している場合は、住宅ローンを組むタイミングでの見直しが必要です。
団信に加入することで、万が一のケースでも、残された家族には住居費の不安がなくなるため、その分は現在の保険料から減額できるでしょう。昨今の教育費の減免・無償化により、教育費にかかる保険料も見直せます。
加入中の保険の見直しだけでは限界があるなら、新しい保険に加入し直すのも一つの方法です。きちんと見直しができれば、月々の保険料を大幅に減らせる可能性があります。
3. 団体信用生命保険の保険料
特約をまったく付けない場合、一般的に団信の保険料は無料です。有料の特約を付けるなら、住宅ローンの金利に上乗せされることが多いため、保険料は変動します。
基本的な保障は無料の場合がほとんど
死亡や高度障がい状態の基本的な保障に対する保険料は、多くの金融機関で無料に設定されています。保険料が無料のケースでは、金融機関が保険料を負担することになります。
住宅ローン契約時には、手数料などまとまった金額を支払わなければならないこともあるため、できるだけ出費を抑えたいなら基本保障を無料で契約できる団信がおすすめです。
加入中の生命保険がある場合も、基本保障が無料の団信をオプションなしで契約すれば、生命保険を見直さずに済む可能性があります。
団信の死亡保険金は、あくまでもローン残債の補てんとして金融機関に支払われるものです。契約している生命保険を残しておけば、残された家族も死亡保険金を受け取れます。
有料の場合、保険料は変動する
団信の特約には、無料と有料の2種類があります。有料の特約を付ける場合は、特約分を住宅ローンの金利に上乗せするのが一般的です。
例えば、りそな銀行が提供する団信に3大疾病保障特約を付けるなら、金利に年0.25%が上乗せされます。
住宅ローンの残金は返済が進むにつれて減っていくため、ローン残金をもとに算出される団信の保険料も、年を追うごとに下がっていく仕組みです。
ただし、ローンの返済期間が長いほど、保険料の支払期間も長くなります。長期ローンを組んでいる場合は、保険料の支払総額も高くなりやすいでしょう。
保険料の支払い方は主に2種類
団信の保険料の支払いパターンは『金利上乗せ方式』と『保険料外枠方式』の2種類に分けられます。
金利上乗せ方式は、住宅ローンの金利に約0.1~0.5%を上乗せし、保険料を支払う方法です。多くの金融機関で採用されています。
金利上乗せ方式では、ローン返済の滞納がない限り、保険料の滞納も発生しません。途中で特約を付けたり解約したりできないことには注意しましょう。
一方、保険料外枠方式は、一般的な生命保険などのように、住宅ローンとは別に保険料を支払う方法です。金利上乗せ方式と異なり、中途解約が可能です。
生命保険料控除は対象外
一般的な生命保険の保険料を支払った場合は、生命保険料控除を適用させることにより、一定金額の所得控除を受けられます。
ただし、生命保険料控除の対象にできる保険契約は、保険金の受取人が契約者本人・配偶者・その他の親族のいずれかであることが条件です。
団信における保険料の受取人は、住宅ローンの契約を締結している金融機関です。団信で保険料の支払いが発生しても、生命保険料控除の対象にはなりません。
4. 団体信用生命保険の注意点
生命保険の一種である団信には、一般の生命保険と同じように考えてよい部分とそうでない部分があります。団信に加入する際に注意すべきポイントを確認しましょう。
「加入していれば絶対安心」ではない
団信と一般的な生命保険の大きな違いの一つに、病気やケガに対する保障が挙げられます。団信の基本保障は死亡と高度障がいのみであるため、病気やケガでローンの支払いができなくなっても、基本的には何の保障も受けられません。
病気やケガのリスクに備えるためには、団信の特約を付帯したり、一般の生命保険でカバーしたりする必要があります。
長期入院や在宅療養などによる長期の収入減少に備える保険として『就業不能保険』への加入も検討しましょう。公的保障や医療保険ではまかなえない、生活費などの不足分もカバーできる可能性があります。
告知内容によっては加入できない
団信は生命保険の一種であるため、一般の生命保険と同じく、加入前に健康状態や病気の既往歴などを正直に告知しなければなりません。
告知内容によっては、追加の告知や健康診断結果票などの提出を求められ、結果的に加入できないこともあります。
故意または重大な過失により正しく告知せず、そのことが後から発覚した場合は、告知義務違反として契約を解除される恐れがあります。
保険金が支払われなければ、残された家族に大きな借金を背負わせることにもなりかねません。告知は正しく行うことが重要です。
通常の団信よりも引受範囲が広いワイド団信
持病や病歴があるため通常の団信に加入できない人のために『ワイド団信』と呼ばれるタイプの団信を用意している金融機関があります。
ワイド団信なら、高血圧症・糖尿病・潰瘍性大腸炎など、通常の団信なら断られるような持病がある人でも加入できる可能性があります。
一般的に、ワイド団信の保障内容は通常のものと変わりません。ただし、通常の団信なら基本保障が無料の場合でも、ワイド団信では金利への上乗せ分が発生します。
5. 団体信用生命保険に入らない方法
さまざまな理由で団信に入らない場合でも、住宅ローンを組むことは可能です。フラット35を利用する方法と、民間の保険会社を利用する方法を紹介します。
加入が任意のフラット35でローンを組む
フラット35とは、住宅金融支援機構と民間金融機関が提携して提供する、最長35年間の政府系融資制度です。
フラット35では団信への加入が義務付けられていません。一般金融機関の団信に加入できなかった人でも、フラット35なら融資を申し込めます。
金利が固定されていることも、フラット35の魅力です。返済プランを立てやすいうえ、景気にも左右されにくいでしょう。
ほかにも、保証人が不要であることや、雇用形態・勤続年数に制限がないことなど、さまざまな条件が緩和されている利用しやすい制度です。
民間の保険を上手に組み合わせる
団信の保障内容と総負担額をきちんと吟味すれば、民間の保険商品を上手に組み合わせて、団信と同等の保障を受けられるようにすることも可能です。
例えば、契約者の年齢が若かったり当面の健康状態に不安がなかったりする場合は、より割安な民間保険を選択することで、家計への負担を軽減できるでしょう。
年を追うごとに保険金が段階的に減っていく『逓減定期保険』の活用も有効です。保険金の支払いシステムが団信と似ているうえ、団信と同様に死亡保険金が受け取れます。
6. 保障内容を確認して慎重な検討を
団体信用生命保険は、住宅ローン契約時に金融機関から加入を求められる生命保険です。一般の生命保険と異なり、原則として病気やケガの場合には保障がありません。持病や病歴が理由で加入できない場合は、フラット35を利用する方法があります。
団信の内容や特約は金融機関ごとに異なるため、追加で支払う保険料も考慮しながら、選択する保障内容を慎重に検討しましょう。