1.住宅ローン控除とは
住宅ローン控除とは、住宅購入に際し住宅ローンを借りた人が受けられる税金の優遇措置で、所得税や住民税が控除されます。
2021年11月現在では、
・年末の住宅ローン残高の1%が、10年間にわたり所得税から控除
・一定の条件に該当する場合は控除期間が3年延長し、最大13年間控除
(11年〜13年目は年末のローン残高の1%と住宅取得等の対価(税抜)×2%÷3のいずれか少ない金額)
というルールになっています。
参考
国土交通省:住宅ローン減税制度の概要
元本3,000万円の住宅ローンを金利0.45%で借りた場合、住宅ローン残高と住宅ローン控除の概算金額は、下記グラフの通りになります。
(2021年1月入居、物件価格3,000万円(税込)、返済期間35年、一般住宅の場合)
住宅ローン控除の金額は、住宅ローン残高の1%ですので、当初は30万円近い金額で、徐々に住宅ローン残高の減少と共に少なくなります。
13年間の住宅ローン控除の総額は約320万円となり、元本の約10.7%となります。
2.住宅ローンのコスト
住宅ローンのコスト(事務手数料・金利)はどうなるでしょうか。
上図と同じく元本3,000万円の住宅ローンを金利0.45%で借りた場合、住宅ローン残高と住宅ローンの事務手数料・利息支払額は、下記グラフの通りになります(事務手数料は一般的な水準である借入額の2.2%(税込)と仮定)。
住宅ローンの利息支払額は住宅ローン残高の0.45%ですので、借り入れ当初は事務手数料として66万円、1年目から利息として13万円ほどを支払います。
35年間の事務手数料と利息支払額の総額は約310万円となり、元本に対して約10.3%となります。
住宅ローン控除とコスト(事務手数料+利息支払額、マイナス表示)を並べて比較すると下記グラフとなります。
住宅ローン控除は借り入れ後13年間のみですが、住宅ローンの残高が当初の期間は大きいため、住宅ローン控除の総額と住宅ローンのコスト(事務手数料+利息支払額)の総額はほぼ同じになります。
つまり、住宅ローンのコスト(元本に対して約10.7%)は住宅ローン控除(同10.3%)で相殺され、ほぼ無料※になるのです。
※本分析は下記前提条件のもと行われています。
・住宅ローンの事務手数料が借入額の2.2%(税込み)
・住宅ローンの金利は0.45%である
・住宅ローン控除率は年末残高の1%で適用期間は13年間
・住宅ローン控除額を最大限利用できるだけの年収がある
3.住宅ローンの団信とは
住宅ローンには団信という生命保険が付いています。住宅ローン利用者が返済期間中に死亡や高度障害になると、その時点で住宅ローン残高に相当する保険金が下りて住宅ローン残高は0円になります。
団信の保険料は住宅ローン金利の中から金融機関が負担して、保険会社へ支払います。
したがって、住宅ローンのコストが住宅ローン控除により無料になっているとすると、住宅ローン利用者は団信という保険に無料で入れていることになります。
団信で支給される保険金はその時点の住宅ローン残高と同じなので、40歳の時に3,000万円の住宅ローンを金利0.45%で借りている住宅ローン利用者は、下記グラフのような年齢に応じた保険金が下りる生命保険に無料で加入できていることになるのです。
4.団信のコスト
住宅ローンを借りること=無料で生命保険に入ること、であると説明してきました。
では、この無料で利用出来ている住宅ローンの団信のコストはどれほどのものなのでしょうか。これを一般的な死亡保険と比較して、計算してみたいと思います。
40歳の時に3,000万円の住宅ローンを金利0.45%で借りた場合と同じく、40歳で期間30年の1,500万円の死亡保険に入った場合の保険金の比較は下記グラフの通りです。
(住宅ローンの残高は返済により減少していくので、仮に3,000万円の半分の1,500万円の死亡保険で計算しています)
(ライフネット生命のシミュレーションを利用 https://www.lifenet-seimei.co.jp/plan/)
上記保険に入る場合には男性だと月6,300円程度の保険料を支払う必要があります。これをもし30年間(360ヶ月)支払うとすると合計230万円程になります。
保険料は年齢によって異なりますが、住宅ローンの団信の価値はおおよそこの程度あると考えられます。
つまり、3,000万円の住宅ローンを借りることで、約230万円かかる保険に無料で入れているということになります。
さらに、総額約230万円の金額を元本3,000万円、返済期間35年の住宅ローンの金利として考えると0.425%程度の金利に相当します。住宅ローンは保険という目に見えない形で0.425%分のマイナス金利状態(=お金を受け取っている状態)と見ることもできるのです。
5.住宅ローン控除が変更されるとどうなる?
2021年11月現在、住宅ローン控除の制度が2022年(令和4年)度税制大綱から変更になる見込みであると、主要メディアが相次いで報じています。
住宅ローン控除制度の主な変更点として報道されているのは以下の内容です。
(1)住宅ローン控除の控除率を年末時点の住宅ローン残高の1%から0.7%へと引き下げる
(2)特例として10年間から13年間に延ばしている住宅ローン減税の控除期間をさらに延ばし、15年間以上とする
住宅ローン控除制度を巡っては、かねてより「1%」の妥当性が議論されてきました。
低金利の影響で1%を下回る金利を利用する人が多いことから、住宅ローン控除額が利息支払い額を上回る「逆ざや」が起こりやすいことが問題視されてきたためです。
もしもこの報道通りに沿って控除がを1%から0.7%へと引き下げとなった場合、1年間の控除額の最大額は28万円となります(従来は40万円)。
また、控除期間も13年から15年に延長へとなった場合、下表のように約60万円、住宅ローン控除額が減少することとなります。
(2021年1月入居、物件価格3,000万円(税込)、借入額3,000万円、住宅ローン金利0.45%、返済期間35年、一般住宅の場合)
住宅ローン控除額の合計(概算) |
|||
改正前 |
改正後 |
差額 |
|
1〜10年目 |
256万円 |
179万円 |
-77万円 |
11年目以降 |
54万円 |
68万円 |
+14万円 |
合計 |
310万円 |
247万円 |
-63万円 |
しかしながら、この場合でも住宅ローン控除額の合計は元本に対して8%あります(247万円 / 3,000万円)。
住宅ローンのコスト10.7%に対して8%分は住宅ローン控除でほぼ相殺されるため、報道通りの制度改正が実現しても、やはり住宅ローン利用者は団信という保険にほぼ無料で入れている状況が今後も続くことになるでしょう。
6.モゲチェックおすすめの住宅ローン活用法!
上記の分析の通り、住宅ローンは本来230万円程の保険料の保険に無料で入れる、又は0.425%のマイナス金利(金利を支払うのではなく、もらえる状態)のローンです。
それを踏まえた上で最も賢い住宅ローンの活用法は下記の通りになります。
(1)できるだけ多く借りる
お金を借りながらお金がもらえる状態なので、できるだけ多く借りた方がいいです。自己資金が用意できる方も資金は手元に置いて住宅ローンを目一杯借りるべきでしょう。
自己資金を出さないのは住宅ローンの審査上はマイナスになりますが、預金残高を見せるなどすれば金融機関も余裕資金があることを考慮してくれます。
(2)できるだけ長く借りる
お金を借りながらお金がもらえる状態なので、できるだけ長く借りた方がいいです。つまり、返済期間は35年とし、約定通り返済する。繰上返済はしてはいけません。繰上返済しないからといってその分散財しろと言うことではなく、返済資金はきちんと用意しながら、マイナス金利を享受すべきだと考えます。
特に年齢が高くなればなるほど保険の価値は高まりますので、ローン残高をできるだけ減らさないようにすると、住宅ローンのメリットを最大限享受できるでしょう。
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